配信や動画の普及によって個人で弾けるように創作物が発信できるようになってきた今、エンタメの種は大空に吹く風の如く広まっている。新しい才能の登場におののくのはもちろん、この風に乗り久々の新曲や新たな試みをひっさげ、ふわりと表舞台に戻ってくるアーティストもいる。これは本当に嬉しいものである。
家事と育児の合間から始まった新曲
2022年11月25日にデジタルリリースされた松浦亜弥の「Addicted」もまさにそれだった。13年ぶり、楽曲の作詞・作曲・アレンジは、松浦のパートナー、w-inds.の橘慶太によるものだ。正直、リリースから2か月経っているが、これが飽きない。そもそも、この歌はすでに2016年にレコーディングされていたものが、6年経った昨年末に公開された。松浦亜弥のコメントによると「なぜか、お互いしっくりきたこのタイミング」。なんともゆったりなプロセスを経て世に出ている。「旬」とは違う、不思議な「永遠の新曲性」のような雰囲気があり、感覚的にとても新鮮だった。
私が聴き出したのは12月半ばだが、心の奥にある感情を吸いこんで、浄化して出てきたような歌声だった。毎回再生を押すたびに、ふんわりと風のように吹いてくる。
この曲について彼女のコメントには、
「『この曲は女性の声が良くて、あとで歌ってみてくれない?』『は~い、い~よ~』と、家事と育児の合間に歌ったところから始まりました!」
とあった。
なるほど、人は日常の生活の流れで、感情を自然に音楽に乗せたら、こんな涼やかな声になるのか! デビューして22年、松浦亜弥が、歌が上手いのはアイドル時代から有名だった。しかし当時のいわゆる「めっちゃ全方位アイドル」の“あやや”を久々に聴いた、というより、アクが抜け、新たな松浦亜弥を知った感じ。ただ、彼女は昔から急いでいない。そのあたりは変わっていなかった。
メール文化全盛期のアイドルあやや
松浦亜弥は、2001年「ドッキドキ!LOVEメール」でデビュー。タイトル通り、「メール文化のアイドル」である。初めての紅白出場曲である3rdシングル「LOVE涙色」も切ないメールからドラマが始まる。この2曲を聴くと、ああ、二つ折りケータイでメールをカチカチ打っていた時期があったなあ、と思い出す(ちなみに2001年はauが動画付ケータイ「cdmaOne C5001T」を発表したころ。そのCMソングはBoAの「LISTEN TO MY HEART」だった)。
2023.01.28(土)
文=田中 稲