ノースリーブやホットパンツを身につけても…

 彼女のバラードは、今聴いても、ものすごい深刻、真剣さがある。私は彼女の11th「THE LAST NIGHT」が大好きだが、これが10代らしい若々しい声と、10代とは思えない凄まじい表現力のバランスに戸惑うほど。まったく違う個性や声だが、なぜか昭和に大ヒットした五輪真弓の「恋人よ」を思い出したものだ。なんというか、平成のオーラを持ち昭和のソウルを歌ってくるイメージ。竹内まりやや谷村新司など、大御所たちが惚れこむのは納得である。

 もちろん、ラ行とナ行の歌い方が超独特なつんく♂歌唱ガンガンの「桃色片想い」をはじめとした曲も若さいっぱいでいい。けれど、どれだけコロコロと変わる表情を見せ、ノースリーブやホットパンツを身につけても、松浦亜弥にギャルを感じることはなかった。凄まじいスピードで進む時代に「乗る」のではなく「格闘」しているように見えた。

新曲が「幸せ押しつけ曲だったら嫌だなあ」

 そんな彼女が12年交際しw-inds.の橘慶太と2013年に結婚。「歌が好き」と14歳でデビューし、「彼が好き」と16歳から交際をする。早い。人生の選択肢がズバッと決まるのが早い! しかもそれを継続し、今年結婚11年目。なんと幸せな……。そのため、今回届いた新曲「Addicted」も、自由に会えなくても、絆とは、家族とはこんなにいいものだよ、と歌う楽曲かと勝手に思っていた。私がこの曲を少し聴くのが遅くなったのはそのためである。幸せ押しつけ曲だったら嫌だなあ。そう思っていたら、違った。会いたいのに会えない、楽しいフリ、大丈夫なフリをしてしまう。心が依存してしまいそうだけどもうやめたい。そんな切なさと向き合う作品だった。自分の恋心を消化できない女の子のメモの走り書きを読んでいる感じになった。

 これを作ったのが橘慶太というのがとても意外。というのも、彼は「ネガティブになったことがない」鋼のメンタルの持ち主だという。実は私は一昨年、「新R25」の彼のインタビューを読み、これが滅法面白く衝撃を受けた。あのメンタリストのDaiGoをして、橘のアドバイスは「ポジティブすぎてまったく参考にならない」と言わしめたというからかなりのもの。

2023.01.28(土)
文=田中 稲