ここもまた、やはり店を継ぐ人はいないようだ。

「いない、いない。やらないもん。ここも借り店舗ですからね。もういい。私は、できないから。コロナがちょっと下火になったでしょ。それで、ちょっと忙しくなってるの、疲れちゃったの、私も」

「お店が暇なほうがいい」と思うわけ

 ただしお聞きしてみると、疲れること以外にも理由がおありなようだ。

「3年前に女房を亡くしちゃったんですよ。71歳。美人薄命だといったもんだ。そうですよ。女房のおかげで繁盛したんですよ。途中で亡くすと、ダメですね、男は。情けない。だから、やめようと思ったんですよ、女房が亡くなったから。そしたら、みんながやめないでっていうんです。私もすぐ逝っちゃうんじゃないかなと思ったらしくて。後追いじゃないけど」

 かくして「こんなに長くやるとは思いませんでした」といいながら、現在もアルバイトの女性と店を切り盛りしている。そんな話をお聞きすることになるとは思ってもいなかったが、だから余計に、来てみてよかったと感じたのも事実だ。

 

「いや、どっちでもいい、私は。うれしくもないし、悲しくもないし。私はお店が暇なほうがいいといってるんです。もうできないから、年だから。女房が死んでからですよ。もう家のこともやらなくちゃいけないじゃないですか。家へ帰って布団も敷かなきゃいけないし。一軒家に住んでるからさ。四十何年やったら、1軒ぐらい建てないと(笑)。俺、そんなに飲まないから。俺、賭け事もしないから。みんな、お金儲かったら賭け事とか、小指に走ったりするから。私、そういうことしないから」

 ふと時計に目をやると、そろそろ3時になろうとしていた。飲む人があまりいないお店だというのに、かなりのビールを空けてしまった。

「さあ、おやつでも食べるか。まだお昼ですけど。3時すぎると夕方になります。3時になったら食事しますから、私。めんどくさいから、早く閉めて、帰ろうかな(笑)」

2023.01.27(金)
文=印南敦史