次々と裏切られる“イメージ”
冒頭でも紹介した通り、Auberge “eaufeu”はオーベルジュである。つまり、宿泊施設としてはもちろん、それ以上といっても過言ではないほど、現地食材を使った料理とドリンクに力を入れているのだ。
もとは校長室として使用されていた一室が現在は「個室」になっている。長さ10mは優に超えるテーブルに圧倒されながら椅子に腰掛けると、前菜が運ばれてきた。
この日の前菜は五郎島金時という加賀野菜のさつまいものペーストによもぎを練り込んで揚げたドーナツ、隣接する日本酒醸造所・農口尚彦研究所の酒粕焼酎で酔っ払わせて揚げたドジョウ、そして、数種類のスパイスが香る加賀蓮根のチップス。どれもが、近郊の食材を使ったもので仕立て上げられている。味はもちろん、どの料理も鼻に抜ける香りが凄まじい。
聞いてみると、シェフの糸井章太さんはハーブやスパイスを巧みに使った“香りや余韻を感じさせる料理”が得意なのだという。なんでも、農園の方ともハーブ話を通じて仲良くなるほどの、“ハーブ変態マニア”なのだとか。
料理一品一品については、食材や調理方法、味のポイントなどの丁寧な説明をしてもらえる。普段の食事とはかけ離れた創造的な料理に緊張がはしるが、スタッフの方のあたたかい対応のおかげで不思議と落ち着いて食事を楽しめる。
オーベルジュならではの嬉しいポイント
蛤の出汁を使用したフラン(茶碗蒸し)、石川の伝統発酵食品である「こんか鯖」を用いたタコス、彩り鮮やかな大根が美しいサラダ、アスパラガスと山採れのキノコを炙った松茸とともに仕立てたリゾット、パリッとした皮目とふっくらとした身の味わいが口いっぱいに広がるナメラ(キジハタ)、火を入れた後に藁で炙って香りを付けたウリボー……。さらに、食後のハーブティとデザートまで。一皿一皿丁寧に味わっていると、次々に食の世界の新たな扉が開かれるような思いだった。
2023.01.21(土)
文=「文春オンライン」編集部