プロが扱うのにふさわしい究極の食肉を料理人の視点で作り、トップシェフたちに届けている“食肉料理人集団”「ELEZO」が、北海道・十勝に肉を楽しむためのオーベルジュをオープンした。
彼らが扱う“命”を育む大自然を感じながら、料理を食し、眠る新しい体験をするために一路北海道へ。
「ELEZO」でしかできない食体験
午後6時30分。いよいよディナーの時間が訪れた。
ドレスアップしてレストラン棟に向かうと、昼間の静かな印象とはまったく違う、命を吹き込まれた光の教会のように、その姿を現した。なにもない草原の上に道標のように光る入り口は、異次元の物語へ続く境界のようで、これから始まる晩餐への高揚感を予感させる。
スタッフに迎えられ、一歩中に入って驚いた。目の前の空間は、レストランというより、「ELEZO」の肉の世界を感じるミュージアムのよう。「ELEZO」で扱う肉が、アートピースのように写真に収まり、展示されている長い廊下が続く。
そして突き当たりを左に曲がった場所の扉を開けると、さらに、驚きは加速していく。そこはダイニングがあるかと思いきや、なんと現れたのはシアタールーム。上質な革張りのシートが並び、大型のスクリーンが前方にあるその様子は、まるで小さな映画館のようだ。
通常、扉をくぐればウエイティングルームやバーがあり、そのままダイニングルームに続くのがレストランのセオリー。だが、食事の前にレストランの仕立ても考え方も型破りな「ELEZO」流であることを最初から感じることができるだろう。
「ようこそ『ELEZO ESPRIT』へ。最初に、こちらで映像をご覧いただきます」
促されるままに座って目の前のスクリーンに目をやると、暗転後、壮大な映像から物語が始まる……。
詳しい内容は、訪れてからの楽しみにして欲しいので割愛するが、10分ほどの映像は「食肉料理人集団」と名乗る「ELEZO」の、十勝の自然に敬意を払い、共に生きるすべての命に向き合い、肉にして料理をするという職人の矜持と哲学を、全身で感じられるものだった。
「なんとなく食事をして欲しくないんです。この場所でやる意味、それぞれの部門の職人たちが向き合っていることを映像で伝えたら、これから召し上がっていただく料理に対する感じ方も変わると思ったんですよね」。シアターを作った理由を「ELEZO」代表の佐々木章太さんが語ってくれた。
そう、「ELEZO ESPIRT」は、ただおいしいものを食べるためだけのレストランにあらず。ここは、彼らの世界に向き合い、食の源となる命に向き合い、その世界観にとことん浸るためのレストランなのだ。
鑑賞後は、シアタールーム横のカーテンが上げられ隣のダイニングへ。どこか秘密めいた空間のカウンターキッチンの中で、料理の現場を仕切るシェフとして佐々木さんが迎えてくれた。
今までの仕掛けに驚いたことを伝えると、なんとオーベルジュの設計はすべて佐々木さん自らが行ったという。金箔を貼ったかのような控えめなゴールドの壁、石造りの少し斜めになっているカウンター。目の前の料理に自然と向き合ってもらえるようにインテリアの隅々までこだわったのだそうだ。オーベルジュの構造にも、彼の伝えたい世界観が徹頭徹尾、見事に貫かれている。
とはいえ、肩肘張った緊張するような空気感はここにはない。佐々木さんを始めとするキッチンスタッフは楽しげに働いていて、客人を温かく迎えてくれるホスピタリティに満ちているからだ。
2022.12.20(火)
文=山路美佐