初版8000部からスタートした小説が、300万部を超えるベストセラーに――異次元のヒットのかげには、ひとりの新人営業マンの存在があった。
『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一 著、小学館)がミリオンセラーとなってからちょうど20年が経つ。ひそかな名作はいかにして社会現象級のヒット作になりえたのか? ブームの立役者にして小学館の現役社員・新里健太郎さん(44歳)に話を聞いた。
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――『世界の中心で、愛をさけぶ』は2001年3月に刊行され、新里さんはその翌年、小学館に入社されています。もともと営業志望だったのですか?
新里 「週刊ポスト」編集部志望と言いつつ、いま思えばそこまで強い希望というわけでもなく、という感じでした。なにせ、あまり読書の習慣がないのに入社試験を受けたくちなので、小学館どころか他の出版社がどういう本を作っているのかもあまりよくわかっていなくて(苦笑)。
2002年7月に一般書の営業を担当する「書籍営業二課」(当時)に配属されました。志望部署ではないけれど、配属されたからにはしっかり結果を出したい。じゃあ結果を出すってどういうことだろうとシンプルに考えて、ベストセラーやミリオンセラーに携わりたいとわりと最初から意識していましたね。やっぱり売れることが一番話題性が出ますから。
――8000部という初版部数には、どのくらいの期待値が込められていたのでしょうか。
新里 私が初版を決めたわけではないのですが、当時の一般書の単行本の最小部数が8000部くらいだったと記憶しています。出版業界としても、その位が平均だったんじゃないかな。
ちなみに、当時の小学館から出ている一般書でミリオンセラーと呼ばれるものは4つだけだったんです。宮部みゆきさんの『模倣犯』が上下巻あわせて100万部、あとは飯島愛さんの自叙伝『プラトニック・セックス』、文庫の『相性まるわかりの動物占い』とその続刊です。4作品すべてが8年上の先輩が担当でした。
2023.01.09(月)
文=「文春オンライン」編集部