「新入社員が一番ベストセラーに近い」と思う理由

――営業・編集の両方でミリオンセラーを手掛けているとはすごいですね。やはり“ヒットの原体験”がいきているのでしょうか。

新里 それはあると思います。僕はいつも新入社員研修などで「新入社員が一番ベストセラーに近い」と言っていて。みんな全然ピンとこない表情で聞いているんですけど(笑)。新入社員のときの「こういう作品が面白い」というピュアな感覚は、読者とすごくいい距離感にあると思うんですよ。

 情けない話ですが、僕が入社4年目のとき、あるケータイ小説の営業を担当することになったんです。その作家さんの過去作の売れ行きをPOSデータでぱぱっと調べて、初版部数を8000部にしようとしたら、担当編集の人に「他社では10万部くらい売れている作家さんなんです」と泣くように抗議されて。

――営業サイドと編集サイドのせめぎあいですね。

新里 大型書店のデータを見ても全然売れていないんですけど、編集者の熱意に押されてもう少し調べてみようと思い直して。そこで地方の小さな書店とかのデータをごっそり取り寄せて見てみたら、めちゃくちゃ売れていたんですよ。過去作を出している出版社にも問い合わせたら、「うちは最低でも5万からいきますね」と言われて。8000部とか言ってすみませんという気持ちになりましたね。結局、その本は10万部からスタートして、20万部以上売れたんです。

 この時点で、入社4年目にしてベストセラーからすごく遠いところにいるじゃないですか。『世界の中心で、愛をさけぶ』のときはピュアな気持ちで作品と向き合えたのに、その数年後には「ケータイ小説ってこういう感じか」という先入観を持って、身近なデータで初版部数を決めようとしている。

 そのときに、『世界の中心で、愛をさけぶ』は新入社員時代に担当したからこそヒットに貢献できたんだと痛感しました。きっと同じ時代に、入社10年目の僕があの作品を担当しても同じ結果は得られなかったと思うんです。いい意味で馬鹿な新入社員だからこそできたことですね。無鉄砲でいられるのは、新入社員の特権ですから。

2023.01.09(月)
文=「文春オンライン」編集部