●自分なりに、新しいボクシング映画を手掛ける

――裏切りという意味では、20年にNetflixでオリジナルドラマ「呪怨:呪いの家」を撮るわけですが、いきなりホラーということには驚かされました。

 僕も驚きました! それまでジャンル映画を撮ったことがなかったですし、「一体なぜ?」という気持ちでいっぱいでした。しかも、めちゃめちゃ怖がりなので。でも、プロデューサーがチャレンジしてくれたので、その気持ちに応えたいと思いました。

――そして、監督最新作となる『ケイコ 目を澄ませて』では、岸井ゆきのさんが演じる「ろう」の女性ボクサーの日常を描いています。

 小笠原恵子さんが書かれた自伝「負けないで!」をもとに映画を作りたいとオファーを受けました。ただ、ボクシングの世界をよく知らなかったですし、ボクシング映画は名作が多すぎて、さすがに新しいことができないだろうということで、研究する時間をいただきました。

 『ロッキー』や『クリード』といったボクシングの迫力を前面に出す作品を目指しても到底かなわない。でも、ボクシングには美しさやスピードもあるし、駆け引きや緊張感のスリリングさに焦点を当てれば、少しでも新しいボクシング映画が作れるんじゃないかと。

――三宅監督自身にキャリアおいて、どんな一作となりましたか?

 「映画って本当に面白い」ってことを体感しましたし、これからも劇場のスクリーンにかける映画を作り続けたいと思いました。

●一度しかない人生を、いかに幸せに生きるか?

――今後の展望や希望、憧れの監督などについて教えてください。

 あんまり考えていませんが、一度しかない人生をいかに幸せに生きるか、ということを捉えることができたら嬉しいですね。それなら、どんなジャンルでも表現できるわけで、その感覚だけは今後も変わらないと思っています。今年亡くなってしまった青山真治監督は、大好きだったので、ずっと憧れの人ですね。

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三宅 唱(みやけ・しょう)

1984年生まれ。北海道出身。一橋大学社会学部卒業、映画美学校フィクションコース初等科修了。商業デビュー作『Playback』(2012年)は、ロカルノ国際映画祭に出品されたほか、『きみの鳥はうたえる』(18年)は「キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画ベスト・テン第3位など、高い評価を得た。また「呪怨:呪いの家」(20年)がNetflixのJホラー第1弾として世界190ヵ国以上で同時配信された。

映画『ケイコ 目を澄ませて』

12月16日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー。

生まれつきの聴覚障がいで両耳とも聞こえないケイコ(岸井ゆきの)は、再開発が進む下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。悩みが尽きず、言葉にできない思いが心の中に溜まっていく彼女は、ジムの会長(三浦友和)宛てに休会を願う手紙を綴るも、出すことができない。ある日、ケイコはジムが閉鎖されることを知る。
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS
https://happinet-phantom.com/keiko-movie/

Column

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2022.12.09(金)
文=くれい響
写真=今井知佑