この記事の連載

三浦天紗子さん[ライター・ブックカウンセラー]

Q1:最愛の一作

『エロイカより愛をこめて』(青池保子/秋田書店)

 リアルな国際情勢と諜報合戦。そんな硬派なストーリーに、BLやほのぼのギャグを随所に散らすというバランスのよさに脱帽です。私は少佐派ですが、主要キャラクターが全員愛すべき魅力に満ちています。世界の動きや歴史美術品というものに興味を持つようになったのはこのマンガのおかげです。

Q2:マンガを読むスタイルは?

 気になった作品は、まずKindleのサンプルページでチェック。面白そうなら大抵、紙で買います。マンガ喫茶でイッキ読みも好きです。

Q3:夜ふかしマンガ大賞に推薦した作品とその理由

『東京ヒゴロ』(松本大洋/小学館)

 編集者・塩澤の、自分が愛してやまない世界を再構築したいという情熱と誠意に打たれる。創作に関わる人、憧れる人の胸に火を灯す物語。続きが楽しみ。

『ひらやすみ』(真造圭伍/小学館)

 主人公のヒロトの人柄のよさに心が洗われるというか。ギスギスした世の中を忘れる清涼剤のようなコミック。モラトリアムキャラとして描かれてはいるけれど、彼の繊細な内面や消化しきれないモヤモヤにも共感ポイント多し。

『恋じゃねえから』(渡辺ペコ/講談社)

 創作と性的搾取の線引きという難しい問題に、これまでにない発見をもたらしてくれそう。

Q4:各部門への推薦作品とその理由

●胸キュン部門

『カラオケ行こ!』(和山やま/KADOKAWA)

 中学生の聡実とヤクザの若頭補佐の狂児、まったく共通点のないふたりが、狂児側の事情により、カラオケレッスンを通して近づいていきます。ほとんど狂児ひとりの無意識の恋慕なのですが、だからこそ切なくて、ふたりのやりとりにキュンキュンします。

●家族部門

『誰も懲りない』(中村珍/太田出版)

 家庭内の不和とDVの連鎖。ある意味、あまりに壮絶で、あまりにおぞましいので安易におすすめできないのだが、「家族とは血ではない」とはっきり教えてくれる作品。けれど、最後に主人公が言うのだ。〈否定していいのも肯定していいのも私だけなんです。私の家族なんです〉。ホントに打ちのめされます。家族というものの重さと複雑さに。

●青田買い部門

『急がなくてもよいことを』(ひうち棚/KADOKAWA)

 家族のこと、暮らしのこと、夏休みのこと……いわゆる何も起きないマンガなのですが、読んでいるうちに、こぼれ落ちていた記憶の断片が再び形を取り戻すような手触りがあります。とにかく画がうまくて、一コマ一コマをゆっくり眺めていたくなる。

三浦天紗子(みうら・あさこ)
ライター・ブックカウンセラー

「an・an」「CREA」をはじめとした女性誌や、文芸誌などで書評やインタビューを担当。著書に『震災離婚』(イースト・プレス)など。趣味はベリーダンス。

2022.12.15(木)
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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