この記事の連載
永田 希さん[著述家・書評家]
Q1:最愛の一作
『青野くんに触りたいから死にたい』(椎名うみ/講談社)
大好きな作品はたくさんありますが、恋愛と性愛、家族問題などを盛り込みながら、ポップさもオカルト要素もハイレベルに維持しつつ、話の落としどころをどうするのか目が離せません。
Q2:マンガを読むスタイルは?
Kindleで購入して、タブレットで読みます。造本が気に入った作品は紙でも買います。
Q3:夜ふかしマンガ大賞に推薦した作品とその理由
『ときめきのいけにえ』(うぐいす祥子/講談社)
スプラッターホラーとラブコメを足して、絶妙な雑さとキャラ造形力で成立している作品。怖いのか怖くないのか、笑っていいのか悪いのか、そのバランスがキワキワ。ストーリーとは別の次元で読んでいてハラハラします。サブスクでB級ホラーを見て時間を潰してしまう感じに近くてよいです。
『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみたヤバい結果日記』(松本千秋/幻冬舎)
ド直球のタイトルそのまんまの内容。「ヤバい結果」かどうかはさておき、マッチングアプリで出会った男性たちとの日々を淡々と描く作品。デビュー作の続編である今作は、イラストレーターからマンガ家に転身する自伝的側面もあり、沁みます。
『無敵の未来大作戦』(黒崎冬子/KADOKAWA)
『ときめきのいけにえ』とはまた別方向に肩の力の入り方が極端におかしい作品。高い古典的画力、往年の昭和マンガからスベり要素だけ抽出したようなギャグ、そして本気具合をはかりかねる社会問題の扱い方。呆気にとられているうちにページを繰ってしまいます。
Q4:各部門への推薦作品とその理由
●女の人生部門
『ジーンブライド』(高野ひと深/祥伝社)
女性社会人が味わう理不尽な不平等を描きつつ、優生思想やクローンを彷彿させる社会派SFサスペンスの側面もあり、気になっています。
●戦争部門
『紛争でしたら八田まで』(田素弘/講談社)
ウクライナ侵攻が始まったときにSNSでバズった「ウクライナ編」で有名な作品。戦争が、地図や年表の上だけで起きているのではなく、経済や社会のなかの人々の感情も大きく関わっており、だからこそ地続きの自分ごととして考えられることを教えてくれます。
●音楽部門
『レベティコ―雑草の歌』(ダヴィッド・プリュドム/サウザンブックス社)
レベティコは「ギリシャのブルース」と言われ、切なく危ないアウトロー音楽の世界が渋かっこいいです。
永田 希(ながた・のぞみ)
著述家・書評家
アメリカ合衆国生まれ。書評サイト「Book News」を運営。「週刊金曜日」書評委員。「このマンガがすごい!」「現代詩手帖」「図書新聞」「HONS」などで執筆。
2022.12.14(水)
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)