この記事の連載
深緑野分さん[小説家]
Q1:最愛の一作
『吸血鬼すぐ死ぬ』(盆ノ木至/秋田書店)
4巻まで読んだときには、まさかこんなにハマるとは思わなかったが、21巻まで読んだ今、人生で一番と言っていいほどめちゃくちゃ好き。スラップスティックでハイテンションなところはもちろん、ツッコミがやけに知的だったり、初期のころに比べて巻を追うごとにリテラシーが高くなっていき、配慮されつつ笑わせてくれたりという、作者のテクニックの高度ぶりが本当に推せる。
Q2:マンガを読むスタイルは?
本棚が足りないため、気になった作品や話題になっている作品はKindleで購入、専用端末で読んでいます。これはいいぞ! となったら書店に行って紙も買う。連載中のものをアプリで読むことも。
Q3:夜ふかしマンガ大賞に推薦した作品とその理由
『ガールクラッシュ』(タヤマ碧/新潮社)
華やかだけれど厳しいK-POPアイドルの登竜門に挑むため海を渡った、主人公の真剣で熱い物語。落ち込むことはあっても、生き生きと踊り歌う女子たちのしなやかさ、エネルギー溢れる強さに魅せられる。〈私を救うのは私〉。堂々としてかっこよくて、読むと元気になる作品です。
『スペシャル』(平方イコルスン/リイド社)
ちょっと風変わりな同級生たちとのほのぼの日常マンガ……かと思いきや、とんでもない展開が待っている。ドライでハード、暴力的。そして度肝を抜くラスト2ページに呆然となった。
『海が走るエンドロール』(たらちねジョン/秋田書店)
何歳になっても新しいことを始められるし、もしかしたらそれが自分の本当に持っている才能かもしれない。65歳を過ぎた主人公の、映画制作に魅せられていくきらめきや、若者たちと関わることによって変わっていく価値観がビビッド。
Q4:各部門への推薦作品とその理由
●お仕事部門
『波よ聞いてくれ』(沙村広明/講談社)
シュールでぶっ飛んだギャグが冴え渡るこの作品をお仕事マンガと形容していいのかどうか甚だ疑問だけれど、ラジオに関わる人々の仕事ぶりや矜持がふいに垣間見えるところがいいので。
●青田買い部門
『半分妹弟』(藤見よいこ/リイド社)
日本で生まれたのに「ハーフ」(その意味は“半分”だ)と呼ばれ、自国民と認識されない人々。彼女らの苦悩や、「日本人」側の無邪気な「分からなさ」にも切り込む。コミカルな作風ではあるけどシリアスで深い。
深緑野分(ふかみどり・のわき)
小説家
2013年に短篇集『オーブランの少女』(東京創元社)でデビュー。『戦場のコックたち』(東京創元社)『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)は直木賞などの候補に
深緑野分さん最新作
『スタッフロール』
80年代のハリウッドで活躍した特殊造形師と、現代のロンドンで働くCGクリエイター。映像に夢を託したふたりの女性の情熱と葛藤、時を超えて共鳴する不思議な縁を描く。深緑さんの映画愛、クリエイター愛に満ちた一作。文藝春秋 1,870円
2022.12.14(水)
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)