「人からもらう感情」と「自分の感情」のはざまで

――『流浪の月』の撮影時、涙腺が壊れて常に涙が出そうになってしまったというお話も伺いました。これもまた、感受性の高さゆえですね。

 何とか蓋をしなきゃいけなかったのですが、どうしても開いちゃっていてという感じでした。もっと更紗として強く生きられていたら違う感じになっていたのかもしれないですが、想像以上に肉体的に感じるものが多かったです。特に亮くん(横浜流星)とのシーンは、お芝居を受けて返す以前に、私自身が自分の感性で動いちゃう瞬間が多くて。

 目の前にいる流星くんが「誰……?」というくらい別人にしか見えなくて、触れたら壊れちゃいそうなんです。想像もつかなかった表情を見るたびに、更紗を超えて私自身が「かわいそうだなぁ」と思ってしまう。衝撃的でしたし、結構(精神的に)キツくて、涙がどんどん出てくる状態に陥ってしまいました。

 亮くんが落ちていくほど私自身もズドンと落ちてしまったのですが、更紗自身は逆に言いたいことを言葉にできるようになっていって、思うような選択を取れるようにもなる。私は落ちていると更紗の希望が消えてしまうから耐えてはいたのですが、難しかったですね。

――感受性が高すぎると、役を飛び越えてしまう瞬間があるのですね……。

 ただクランクイン前はむしろ逆で、お芝居に対して手触りが何もない状態が続いていたんです。李さんにも「ずっとふわふわしていてヤバいです」というのは事前に全部お話ししていたのですが、想像以上に私が何を言ってもぽかんとしている状態が多く、頭を抱えてしまっていたと聞きました(苦笑)。

 人からもらう感情だったら行くところまでは行けるのですが、自分発信で言葉を発したり行動を起こすことが全然できなかったんです。自分の感情と更紗が上手くつながらなくて、とにかく悩みました。でも、李さんは自発的に生まれるものをずっと待ってくれていました。

――その状態から脱却する契機になったのかなと思うのは、コロナでの中断期間に追加された湖のシーンです。劇中でも非常に重要なシーンですが、ターニングポイントとしても機能していたのではないかなと感じました。

 確かに、あのシーンをやったことですごくすっきりしましたね。感じられていなかったことを感じられるようになったというか、そこに行くことではっきりと“実感”がわいてきて。更紗が自由だった時間の象徴であり、文と別れた場所でもあり……。特別な場所に来た感覚がありました。

2022.04.29(金)
文=SYO
撮影=平松市聖
ヘアメイク=奥平正芳
スタイリスト=丸山晃