●人生を変える自主映画『ケンとカズ』との出会い
――2010年、舞台「TIC-TAC」で初舞台にして初主演を務められます。その一方では、映像製作集団「Engawa Films Project」を立ち上げ、短編映画を製作されます。
右も左もわからず俳優活動を始めて、すぐに演出家のヨリコジュンさんに出会いました。毎週、ワークショップに通う日々が2年間ほどあり、演技のことはもちろん、ほかにもいろんなことを教わりましたし、初舞台で初主演というのも大きな経験でした。
ただ、ほかに舞い込んでくる仕事は、エキストラや一言だけセリフがあるような小さい役ばかりで悶々とした日々が続き、初めて悔しいと思いました。そこで「誰も撮ってくれないなら自分たちで撮ろう!」と、ヨリコさんのもとで出会った仲間と自分たちが主演の短編映画を作り始めました。
――友人でもある小路監督の長編映画『ケンとカズ』に出演。裏世界で生きる主人公のカズ役を演じられました。
僕は11年に作った短編版にもカズ役で出ていて、長編版のときはもう26歳だったんです。30歳が見え始めて「そろそろ人生ヤバいんじゃないか?」という焦りがありました。ほかのみんなもそうだったと思います。でも、初めての長編映画に仲間たちと没頭しまくった日々が、純粋に楽しくて夢のようでした。撮影が終わってから作品が世に出るまで2年ぐらいかかっているので、だんだん現実に戻されましたが……(笑)。
●いきなり吉永小百合、佐藤浩市らと共演
――その後、15年に本名の毎熊克也から芸名の毎熊克哉に改名されます。その理由は?
専門学校を卒業して、「俳優を始める」と言い出したときに、特に父親はあまり前向きな反応ではなかったんですよ。その父親が「こっちの方が、画数がいいぞ」と言ってる、と母親から連絡があって。僕は芸名とか考えたこともなかったのですが、名付けの親が言ってるなら気分転換にと、変えました。その直後に『ケンとカズ』が東京国際映画祭で作品賞を受賞したんです。「嘘でしょ?」という感じでした(笑)。授賞式で監督の小路がスピーチする姿は、今まででいちばん感動しました。
――「第28回東京国際映画祭」の日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞した『ケンとカズ』は、翌16年には劇場公開。自主映画ながら「第71回毎日映画コンクール」スポニチグランプリ新人賞などを受賞。それを機に、吉永小百合さん主演作『北の桜守』では、佐藤浩市さん演じる闇米商の助手役に大抜擢されました。
東京国際映画祭の後は「嘘でしょ?」の連続で、僕も有難いことに新人賞をいただきました。その授賞式でのスピーチを、東映の岡田裕介会長が最前列で見ていらしたのがきっかけで、吉永小百合さんの主演映画に抜擢していただくことになったのですが、スタッフ・キャスト共に、どちらを向いても大ベテランの先輩方ばかりで、とても怖かったです。
でも、「せっかくいただいた機会なんだ!」と覚悟を決めて現場に向かいました。それから、今に至るまでたくさん良い出会いを重ねることができたおかげで、城定監督や今泉監督とも映画を撮ることができて、本当にラッキーです。
次回は、最新出演映画『猫は逃げた』についても語っていただきます。
毎熊克哉(まいぐま・かつや)
1987年3月28日生まれ。広島県出身。2016年、主演映画『ケンとカズ』で、「毎日映画コンクール」スポニチグランプリ新人賞などを受賞。その後、『北の桜守』『万引き家族』『空飛ぶタイヤ』『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』などの話題作に出演する。
映画『猫は逃げた』
週刊誌記者の広重(毎熊克哉)は同僚の真実子(手島実優)と浮気中で、漫画家の妻・亜子(山本奈衣瑠)も担当編集者の松山(井之脇 海)と体の関係を持っており、夫婦関係は冷え切っていた。そんな離婚間近の2人は、飼い猫のカンタをどちらが引き取るかで揉めていたが、突然カンタが家からいなくなってしまう。
©2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ
https://www.lr15-movie.com/nekowanigeta/
2022年3月18日(金)より新宿武蔵野館ほか、全国順次公開。
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2022.02.25(金)
文=くれい響
写真=佐藤 亘
スタイリスト=カワサキ タカフミ
ヘアメイク=茂木美鈴