今後彼ら若手俳優、あるいは映像作家としての石井永二監督が大きく飛躍するほど、『県北高校フシギ部の事件ノート』というコンテンツはそれを所有する茨城県の手の中で輝くことになる。

「撮影はコロナ禍と梅雨と台風の中、スタッフにも抗原検査を行いながら進めました」

 作品のもう1人のキーパーソンである企画・原案の東野みゆき氏は、オンライン取材に対してそう明かしてくれた。

「自分自身も茨城出身で、大林宣彦監督の尾道三部作や、新海誠監督の作品のように末長く聖地巡礼を生み出すような作品を自分の生まれ故郷で作ってみたかった。茨城を舞台にした『ガールズ&パンツァー』が成功していましたし、自分の好きな『映像研には手を出すな!』や『リンダリンダリンダ』などのコンテンツをオマージュしつつ、茨城を舞台にユニークなものを作れないかと考えていました」

 コロナ禍の中、劇場公開のリスクが読めない映画制作は中小規模の冒険が通りにくく、「安全に当てにいく」方向に流れつつあると言われる。そんな中、県自身が公費で制作し、オンラインで公開するコンテンツはコロナ禍で埋もれかねない若い才能を掬い上げる新しいメディアになりうる。それはすぐに利益の上がるシステムではないが、営利企業ではない県が運営するチャンネルだからこそ、県のPRと若いクリエイターの育成を両立させ、多様な才能を生み出す可能性があると思えるのだ。

 公費である以上、大きな予算を割くことはできないかもしれないが、『県北高校フシギ部の事件ノート』は低予算で大きな評価を獲得する、レバレッジ(梃子)のように「小さく作って大きく育てる」コンテンツとして成功していると思える。

 

ガルパン、乃木坂…再び物語コンテンツの聖地になる予感

 民間の調査会社による都道府県の「魅力度ランキング」では、茨城県が7年連続最下位のあと、一度42位に浮上してまた最下位に戻ったと報じられた。茨城県の大洗やMV撮影地を聖地として巡礼する『ガールズ&パンツァー』や乃木坂46のファンならずとも、いささか納得しかねるランキングではある。だが、この茨城県に対する評価は遠くない将来、コンテンツを起点として逆転するのではないかと思っている。

2021.12.02(木)
文=CDB