カットのつなぎは無駄が削ぎ落とされ、移り気なWEB視聴者に1秒も「たるい」と感じさせない構成になっている。だが無駄なく物語のカットが繋がれるからこそ、カットの中の森林の映像ではゆるやかに時間が流れ、高校生の少年少女の物語が繊細に展開する。
興味を持って調べたが、約15万回再生という人気を博しながら、地域おこしWEBドラマである『県北高校フシギ部の事件ノート』には映画のようなパンフレットもなく、スタッフやキャストのコメントも少ない。
かろうじて日立市のホームページの中に公式ページらしきものが見つかり、そこには「監督・脚本 石井永二 企画・原案 東野みゆき 制作 テレビマンユニオン」と表記されていた。この作品の制作背景に強く惹かれた筆者は、オンラインで石井監督と東野氏に取材を申し込んだところ、驚くような制作裏話を聞くことができた。
「機材も特別なものは使っていません」
「実は撮影体制としてはものすごく小規模だったんです」と明かす石井永二監督は、NHKで話題を呼んだドラマ『古見さんは、コミュ症です。』やコロナ禍で甲子園が中止になった高校球児たちのドキュメンタリー『甲子園のない夏』など多くの作品を手がけてきた映像作家だ。
「通常だと技術チームは、撮影部(カメラマン、DIT、助手数名)、照明部・録音部(技師、助手数名)という体制ですが、『低予算である』『6市町の様々なロケ地を回る』ことを考え、ドキュメンタリー撮影と同じENGスタイルにしたんです。今回は屋外撮影が多いので照明部は入れず、屋内シーンは撮影部の照明機材で対応しました」
つまり、映画撮影のように照明スタッフがライトを当て、録音技師がマイクを伸ばし、カメラマンが三脚に固定したカメラを回すスタイルではなく、ドキュメンタリー作家がカメラを肩に担いで撮影するような少人数体制の映像だったということだ。撮影を担当したのはドキュメンタリーで活躍する伊藤加菜子氏だったという。
2021.12.02(木)
文=CDB