「機材も特別なものは使っていません。メインカメラはSONYのFX6、レンズも単玉ではなくズームレンズ、登場人物の女子高生、宮本ナミが撮影するカメラに至ってはスタッフが10年前に購入した古いものです」

 SONYのFX6は映画的映像が撮影できるプロ仕様のものではあるが、石井監督の言う通り業界標準としては特別に高価な機材ではない。石井監督によれば色調整などもそれほど手をかけたわけではなく、撮影と編集の段階で微調整した程度とのことだ。

 映画の常識として、制作費はたちまち映像のクオリティに跳ね返る。ハリウッド映画と日本映画を見比べて「同じようなストーリーなのになぜ映像が安っぽいのだろう」とがっかりした経験のある観客は多いだろう。都会の中で撮影すれば、セットにかける金はハッキリと映像に出てしまう。

 だが、通常ならテレビドラマにすら及ばない予算と機材で撮影されたはずの『県北高校フシギ部の事件ノート』の映像は魔法がかかったようにリッチに、美しく輝いて見える。それは撮影のセンスに加えて、茨城の森林風景が持つ圧倒的な情報量を背景にしているからだ。

 

 キャンプなどで山奥の森林に足を踏み入れた時、自然の森が持っている濃密な「気配」を感じたことのある人は多いだろう。

『となりのトトロ』の舞台となったのは所沢の森だが、優れたアニメーターである宮崎駿はその「気配」を絵に描き写すことで世界的なアニメを作り上げた。『県北高校フシギ部の事件ノート』は、アニメで描くには天才的才能が、CGで構築するには巨大なメモリと費用が必要な「自然」というビッグデータを、撮影スタッフの手持ちカメラで鮮やかにドラマに組み込むことに成功している。

 ダークグリーンの森林と、高校生たちの顔の若々しい血色は、まるで入念に色彩設計をしたように映像の中で鮮やかなコントラストを描く。自然の永遠と、青春の瞬間が画面の中で交差する物語は、まるで大林宣彦の尾道三部作の茨城版を見ているようだ。

2021.12.02(木)
文=CDB