実はこの「茨城の風景情報をバックデータに活用する」という手法は、『県北高校フシギ部の事件ノート』以前からある。よく知られることだが、アニメ『ガールズ&パンツァー』は舞台を茨城県大洗町に設定し、その風景をアニメ映像に取り込むことでファンたちの「聖地巡礼」を呼び込んだ。美しい映像で知られる乃木坂46のMV『ガールズルール』『太陽ノック』『路面電車の街』なども茨城県で撮影されたものだ。

 渋谷のスクランブル交差点が撮影のメッカであるのと同じように、茨城県は濃密で強い情報を持つ「映像資源」の宝庫なのだ。

地方版Netflix? 大きく「化ける」可能性

『県北高校フシギ部の事件ノート』は作品自体の出来のよさに加えて、自治体資本→WEB公開という制作の形態が持つ可能性を感じさせる。県が持つ映像資源を都会に売り出すだけではなく、茨城県自身が「映像資源の生産者」になりうることを示した作品でもあるのだ。

 韓国語ドラマ『イカゲーム』が配信サービスNetflixで世界的ヒットを記録したことが報じられているが、Netflixドラマは制作費を負担する代わりに著作権や版権をNetflixが所有するシステムだ。この『県北高校フシギ部の事件ノート』もNetflixと同じように、茨城県自身が公費で制作し、県がコンテンツホルダーになっている。

 NetflixとちがいYouTubeで無料で見られる上に、広告も入れていないので、作品が多く再生されたからといって利益が上がるわけではない。だが、県自身がコンテンツを作り所有することの意味は大きい。作品のみならず、クリエイターやアクターは、将来的に大きく「化ける」可能性を秘めているからだ。

 

県が若い才能を発掘できるワケ

 石井監督へのオンラインインタビューによれば、折口ミコト役の凛美、宮本ナミ役の其原有沙、柳田役の新原泰佑の3人は50人規模のオーディションの中から選ばれたキャストだという。自然体だが演技力は確かで、将来が楽しみな俳優たちだ。

2021.12.02(木)
文=CDB