西島秀俊と内野聖陽の主演ドラマ「きのう何食べた?」がついに劇場版として復活! 初日だけで観客動員数12万人、興行収入1.6億円を超える大ヒットスタートを切っています。

 原作は青年漫画誌「モーニング」で連載中のよしながふみの人気漫画です。


 もともとBL誌での連載を考えていたとよしなが先生が語っていたこともあることからもわかるように、これはBLジャンルの作品。ただ、私たちが想像するような、少年や青年たちの恋愛や性愛を描いた、いわゆる「BL」とはちょっと趣が違う作品となっています。

 今回はまだ原作やドラマに触れていない人にもわかりやすく、作品の魅力をご紹介しながら、性的マイノリティを取り巻く日本の現状についても考えます。

ミドル世代ゲイカップルのほほえましい日常

 本作の主人公、弁護士の筧史郎(西島秀俊)と、美容師の矢吹賢二(内野聖陽)は、2LDKの部屋で一緒に過ごすゲイカップル。倹約家で料理好きの史郎(以下シロさん)が料理をつくり、賢二(以下ケンジ)と二人で食べるといった食生活が中心となり、物語が展開していきます。職場など周囲にカミングアウトしていないシロさんと、カミングアウトしているケンジ。それぞれのゲイが抱える諸事情や、両親との関係も描かれているのが魅力です。

 劇場版では、さらに原作でも人気の高いエピソードがてんこ盛り。シロさんがケンジへの誕生日プレゼントとして、京都旅行をプレゼントするところから物語がはじまります。ドラマでは彼らの半径5メートルの日常がメインでしたが、劇場版の舞台はいきなり京都! こういうの、映画のスケール感が味わえていいんですよね。

 さて、BLといえば若い男性同士が互いに惹かれ合い、恋に落ちるラブストーリーを想像しますよね。現在放送中のドラマ「消えた初恋」もそうですし。でも、それだけがBLにあらず! 本作は恋愛が成就した”大人”二人の、その後の日々を淡々と描いています。

 異性愛のラブストーリーは結婚というゴールがあるけど、同性同士ではそうはいかない。まして子どもがいるわけでもない。大きなイベントもなく、変化のない日常を送るしかありません。そんな現状の中を、シロさんとケンジがお互いを思いやりながら、ひたすら「暮らし」を続けていきます。

 本作において恋愛は、仕事への取り組み、同僚や家族との関係、食事や日常会話などの網の目なかで描かれます。ドラマチックなものだけが恋愛だと思いがちですがそんなことはないし、恋愛はただ二人だけいれば成立するというものでもないんですよね。そのことを改めて気付かせてくれます。

 また、ドラマ性が少ない日常の中にある悲喜こもごもを丁寧に描いているからこそ、共感ポイントも多め。親のことやお金のことなどは、男性同士だけではなく、誰もが当てはまる悩みではないでしょうか。観ていてうなずく部分も多いと思います。

奇跡のカップリングに歓喜

 特記すべきはキャスティングの妙。西島秀俊、内野聖陽のカップリングが観られるなんて、10年前の日本では想像もできなかったことです。ドラマ版の発表で二人のビジュアルが公開された時、原作の雰囲気そのままで歓喜した人も多いでしょう。もちろんこの二人なら演技も間違いありません。

 西島さんは聡明でクールな印象がシロさん役にピッタリ。内野さんはケンジのイメージとはかけ離れていますが、朗らかで明るくかわいらしいキャラクターを繊細に演じきっています(特にドラマ版10話でケンジが口を震わせながら涙を流す渾身の演技、11話でシロさんが朗々と自身の葛藤や思いを語るシーンは胸が締め付けられる……)。

 この二人でなければこの作品の実写化は成立しなかったでしょう。「きのう何食べた?」と同じ脚本家・安達奈緒子さんによる脚本朝ドラ「おかえりモネ」での再共演も嬉しかったですが、このコンビはずっと観続けたくなる魅力があります。

 自分の気持ちや感情を隠しがちなシロさんが、ケンジの影響で心の固い殻を徐々に柔らかくしていき、回が進むごとに生きやすさを身に着けていく変化も作品の見どころ。性格の違う二人が、ゆずれないことを主張しつつも、お互いに歩み寄る。誰かとともに生きるってこういうことなんだよなぁ。

 スマホの動画映像を使ったオープニングのタイトルバックも、リアルなカップルのホームビデオのような雰囲気満載でニクイ演出。柔らかい素の表情って、パートナーにしか撮れないものですよね。ここからも二人の素敵な関係性が伝わってきます(劇中では実際に内野聖陽さんが撮影している映像を使用しています)。ちなみに映画版もオープニングは同フォーマット。二人の京都旅行が楽しげなダイジェストでまとめられていて良き!

 また、ほかのキャスティングも原作に忠実で、安心感があります。サブカプの小日向さん(山本耕史)と、ジルベールこと井上航(磯村勇斗)のやり取りはいちいちかわいいし、シロさんの買い物仲間の佳代子さん(田中美佐子)は素直にズケズケ言うので、良くも悪くもみんなの気持ちに変化や気付きを与えてくれる。この三人はドラマ版に引き続き劇場版にも出演します。さらに劇場版には新キャラ・タブチくん(松村北斗)も。現在放送中の朝ドラ「カムカムエブリバディ」とはぜんぜん違う役柄なので要チェックです。

2021.11.17(水)
文=綿貫大介