横浜・黄金町を舞台にしたアートフェスティバル「黄金町バザール2021」が、10月31日まで開催中。14回目を迎える今年は「サイドバイサイドの作り方」をテーマに、国内外のゲストアーティスト12組と黄金町アーティスト・イン・レジデンスの参加アーティスト29組の作品を展示しています。
2000年代前半まで、売買春などを行う違法店が数多く並ぶ街で知られていた黄金町。しかし生活環境や治安の悪化が問題となり、地域住民をはじめ、行政・警察が総力をあげて街を一新することに。以降、“アートによる街づくり”が進められ、その一環として、2008年にスタートしたのが「黄金町バザール」です。
そんな歴史的事情によって、高架下周辺には細い建物が所狭しと立ち並んでいます。無数の扉や窓が連なって見える独特な景観。小さな店のウインドウや細い建物の中、黄金町のそこかしこにアーティストの作品があふれかえっています。今回は、「黄金町バザール2021」から注目作品をご紹介!
街の特性を生かしたユニークなアート作品
まず黄金町駅近く、大岡川沿いにある黄金ミニレジデンスへ。かつては違法店だったであろう3階建ての細い建物の小さな6つの部屋に、犬の着ぐるみがだらんと倒れています。一見シュールなその光景は、不気味な気配もあり、死を想起させる作品だということに気づきます。
孤独死や人々の断絶といった社会問題をテーマに制作するトモトシの《犬死のトレーニング》は、軽やかでポップな作風ながら、都市空間で置き去りにされる存在や感情を浮き彫りにします。
特別公開されている高架下の空き地を利用して、人々の記憶に潜む実在しない都市を描き出した《都市計画》は金子未弥の作品。ガードレールや道路標識など、廃材を用いたインスタレーションは公園の遊具のような懐かしさもありながら、ひとけのない空間と電車の通過音も相まって近未来を感じさせます。
北アイルランドを拠点にしている増山士郎は、人々や社会と関わるプロジェクト、いわゆるソーシャリー・エンゲイジド・アートを実践するアーティスト。本展では、鑑賞者が一人だけで飲食し、社交することができないひとりぼっちの酒処《新スタイル酒処「ひとりぼっち」》を展開し、黄金町の一角で実際にノンアルコールドリンクの提供も行っています。コロナ禍で気軽なコミュニケーションが難しくなったいまだからこそ、このプロジェクトの意義や通常の飲食店舗とは異なる「アート作品」としての面白さを体感することができるはず。
2021.10.19(火)
文=鈴木桃子
写真=鈴木七絵