ほんわかエッセイと共通するナガノさんの作家性とは?

 これまでのナガノさんの作品とは一線を画す『もぐらコロッケ』と『ちいかわ』。

 ここから察するに、ナガノさんの作品にはざっくり分けて「リアル=ほんわか」「フィクション=シビア」な雰囲気が漂っているともいえるのではないか

 現実世界が苦しいから、フィクションに逃避するといった心理描写を含め、往々にして作劇では逆の方法論を取ることが多いため、この区分けはなかなか珍しい。

 しかし、もう少し考えていくと、ナガノさんが「生活を描く」作家であるという“芯”は、全くブレていないようにも思えてくる

 フィクショナルな世界の『もぐらコロッケ』『ちいかわ』で描かれる日常は確かにシビアな部分はあるが、これがあることで不思議と生活感が生まれ、荒唐無稽なものに終わらない。

 そもそも、現実世界に根差した『自分ツッコミくま』では、「この世はシビアなものである」を描く必要がないのだ。なぜなら、私たちは自分たちが生きる社会が楽なことばかりではないと「知っている」。ならばこそ、見落としがちな“些細な幸せ”を掬い、描くという方法論が生まれてくる。

 その逆に、『もぐらコロッケ』『ちいかわ』ではファンタジーの世界に世知辛さを混ぜ込むことで、私たち読者が受け入れやすいような塩梅へと調合がなされている。ベクトルこそ違えど、本質は同じなのだ。

 一言で言えば、「世知辛い日常に楽しさを見出す」――それこそが、ナガノさんの「作家性」といえるのではないか。リアルとファンタジー、ふたつの世界を描きつつ、私たちの軟さに寄り添ってきたナガノさん。感謝しつつ、一読者として共に歩んでいきたい。

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SYO

映画ライター・編集者。映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人以上。CINEMORE、Fan's Voice、映画.com、Real Sound、BRUTUSなどに寄稿。Twitter:@syocinema

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2021.08.23(月)
文=SYO