一転、超シビアな世界観の『ちいかわ』『もぐらコロッケ』

 ただ、そこ「だけ」がナガノさんの魅力ではない。特に近年、漫画家としての進化は目覚ましく、ほんわかした世界観にとどまらない「シビアさ」も描くようになってきたのだ

 ここからは、ナガノさんの漫画『もぐらコロッケのうた』『もぐらコロッケのゆめ』『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』を例に、その新たな魅力に迫っていきたい。

 まず簡単にキャラクター紹介をすると、もぐらコロッケはその名の通りコロッケのキャラクターだ。歌を歌うのが好きで、泣き虫でもある。

 一方『ちいかわ』には、なんか小さくてかわいいやつ、通称「ちいかわ」、そして仲間の「ハチワレ」「うさぎ」を中心に、様々な個性豊かなキャラクターが登場する。

 『もぐらコロッケ』『ちいかわ』共に、彼らの日々と冒険が描かれるわけだが、ここで注目したいのは、例外はあれど「自分ツッコミくま」が現実ベースなのに対し、この2作は架空世界、つまりファンタジーであるということ。

 日常の面白さをメインに描いてきたナガノさんは、漫画家としてファンタジーの分野に進出したのだ

 そしてこの「ファンタジーの世界」の描き方も、自分ツッコミくまとはテイストがやや異なっている。それが、先ほど述べた「シビアである」部分だ

 例えば『もぐらコロッケ』では、水に濡れてしまったもぐらコロッケの衣がびしょびしょになってしまう描写がある。それだけだとアンパンマン的なニュアンスを感じてフフフと笑っていられるが、ふとしたことから仲間の一部を食べてしまい、そのおいしさに取りつかれる(つまり共食い)ようなエピソードまであると聞くと、うすら寒さを覚えるのではないか。

 そのエピソードはこうだ。縁日でたまたまコロッケを食べてしまったもぐらコロッケのひとりがその味を忘れられず、寝ている同胞の頭をこっそりかじる。その後、禁忌に触れたもぐらコロッケが、恍惚の表情を浮かべて集団の中でよだれを垂らすシーンは、狂気そのものだ

 わずか6ページの短編だが、食レポのナガノさんのイメージで読み進めると、衝撃を受けるだろう。

 他にも、『もぐらコロッケ』シリーズにはやたら性悪なキャラクター(ナチュラルボーンキラーぶりがすさましく、かなりヤバめ)が登場したり、意味もなく攻撃してくる「思考が読めないキャラクター」も出現。無表情のまま襲い掛かってくるものもおり、かわいいだけではないエグみが、確かに存在している。

 『ぼのぼの』にしろ『リラックマ』にしろ『ドラえもん』にしろ、かわいさとシビアさのギャップは国内のコンテンツにおいて、伝統的な部分はあるといえるかもしれない。

 一見ほのぼのしたファンタジーの中にどこかゾクッとする瞬間を忍ばせることは童話的なニュアンスを強めることにもつながり、ナガノさんがある意味先輩たちの作った轍を進んでいく点で、系譜も感じさせる。

2021.08.23(月)
文=SYO