タッチこそ可愛らしいが暴力性が渦巻く『ちいかわ』
『ちいかわ』においても、その雰囲気は踏襲されている。この世界においては、モノを入手するためには労働に従事し、金を得なければならない。草むしりのような作業から、「討伐」と言われる謎の敵(結構グロい)を刺股(さすまた)で退治する危険なものまで千差万別だが、「命を奪った対価として金をもらう」が「仕事」として社会システムに組み込まれている世界というのは、なかなか「かわいさ」とは程遠い。
タッチこそ可愛らしいが、そこには暴力性が渦巻いており、ダークファンタジーの雰囲気が漂う。
序盤こそ、ちいかわとハチワレのほのぼのとした生活にうさぎが絡んでくる“日常回”が多かったものの、次第にシリアスな雰囲気も漂ってきた『ちいかわ』。伏線のようなものも張られており、読者に考察欲を喚起させるような、かつてないステージに進みつつある印象だ。
読者に衝撃を与えた「大きい討伐」に3匹が挑むエピソードも、色々と謎が残る展開に。彼らが生きる世界は、外部からの侵略を受けているのか? 討伐対象が言葉を話し、コミュニケーションを図るシーンもあり、そもそも全員が「敵」なのか? という疑問も生まれる。
先ほども述べたとおり、討伐が仕事として認可されている以上、権力者が抹消したいと考えているわけで、何か上の方で大きな争いが起こっており、ちいかわたちが“駒”として使役されている可能性もなくはない、と考えられるのだ。
というのも、『ちいかわ』の世界の住人は全体的に貧しい。ハチワレが住む洞窟はものがなく、家具もボロボロだ。ちいかわが暮らす住居は立派だが、それは家の抽選に当選したから。明らかに、衣食住が足りていない。それが、「仕事」の「早い者勝ち!」というセリフにつながる。
うさぎがリサイクルショップで買った杖によってトラブルが発生するホラー回「杖」にも、それぞれの経済状況が見え隠れしている。ほしいものを出してくれるが、使った者を化け物にしてしまう杖は、この世界観だからこそ映えるものでもあろう(魔女に人形にされる『なんとかバニア』編も怖い)。
そのほか、酒のアテが大好物なくりまんじゅうや、承認欲求に取りつかれたモモンガ、見た目は怖いが中身は親切なヨロイさんなど、一癖も二癖もあるキャラクターが登場。まだまだ全容が明かされていない『ちいかわ』の世界は、今後もどんどん拡張していきそうだ。
『もぐらコロッケ』に出てきたレーザー公爵の存在が『ちいかわ』でも仄めかされたりと、この先MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)的な「複数作品が繋がる」ナガノ・ユニバースも期待できる。
2021.08.23(月)
文=SYO