一晩で伝説級のバズを生み出した漫画『ルックバック』

 2021年7月19日、1本の漫画が世に放たれ、耳目を集めた。集英社が運営する漫画アプリ「ジャンプ+」にて公開されたその作品の名は、『ルックバック』(サイト上からも閲覧可能)。

 『ファイアパンチ』やTVアニメ版の放送が控える『チェンソーマン』など、独特の世界観で人気を博す漫画家・藤本タツキ氏による新作読み切り作品だ。そのボリュームは、なんと規格外の143ページにも及ぶ。まさに渾身の力作と言っていいだろう。

 2018年12月から「週刊少年ジャンプ」で連載されていた『チェンソーマン』は、2020年12月に「第一部」となる「公安編」が完結。それ以来の新作とあって、ファンにとっても待望だった(ちょうどアニメ版のPVが公開されたタイミングも近く、熱が高まっていた部分もあろう)。

 『チェンソーマン』の担当編集者でもあるヒットメイカーの林士平氏が、以前よりTwitter等を通じて盛り上げていたこともあって、「7月19日、日付が変わった瞬間に藤本先生の新作が来る!」という期待感は、日増しに強まっていた印象がある。

 とはいえ、公開後の反響は想像以上だったのではないか。Twitterでは長時間にわたって関連ワードがトレンド入りし、一般の読者だけでなく著名人やクリエイター、同業者となる漫画家たちも、続々と感想を投稿。

 その結果、ジャンプ+史上初となる、1日で閲覧数250万を突破する大ヒットを記録。その勢いは本稿の執筆段階(7月20日時点)でもとどまらず、配信2日足らずで閲覧数400万に到達するなど、拡散が続いている。

 SNSを覗いてみると『ファイアパンチ』『チェンソーマン』の元々の読者ではなかった、つまり藤本氏の作品に『ルックバック』で初めて触れたユーザーも多く見られ、飛躍的なリーチを達成したことが伝わってくる

 143ページというボリュームは、誌面だとなかなか実現しにくいものだ。また、近年のジャンプ+が発表する作品群を見ていても、ネット上での発表形式は、より様々な表現をチャレンジする自由度が高い

 この辺りは、ドラマにおける分数(ボリューム)をクリエイターが調整でき、エロやグロなど攻めた表現もOKなNetflixに近いといえるかもしれない。向き不向きは個々人によるだろうが、漫画家の作家性や、創意工夫をそのまま出しやすいのだ。

 そして『ルックバック』は、まさにジャンプ+だからこそ可能な内容・構成になっている(その後のバズも、みんなが読める期間限定の無料公開が故だろう)。

 では、ここまで驚異的な反響を得た『ルックバック』は、どんな作品なのか? ここからは、その具体的な内容を紹介していきたい(※結末のネタバレもあるためご注意を! 未読の方は先に作品を読んでから、次ページへどうぞ)。

2021.07.23(金)
文=SYO