レトルトの難易度は高いはず「プラウンモイリー(海老のココナッツカレー)」

 モイリー(モーレーと表記されることも)は、南インドケララ地方の魚介類を使ったカレーの典型的なスタイルのひとつ。先ほどのココナッツチキンの製法とは対照的に、ココナッツミルクの乳化を解かずに仕上げるクリーミーなカレーです。

 元々スパイスの量や種類を多く使わない極めてシンプルな、かつ短時間で仕上げて出来立てを食べるカレーであり、ある意味レトルトでの再現が最も困難なタイプのインドカレーのひとつとも言えると思います。原材料表をつぶさに見ると、本来はあまり使われない「でん粉」がわずかに加えられているようで、これがレトルト加熱下でのココナッツミルクの分離を防いでいるのでしょうか。ま

 たこのカレーは仕上げ間際に入れたトマトが完全には煮崩れしない状態で入っているとおいしいものなのですが、この点は「ドライトマト」を使用することでその形を最後まで保たせるという工夫がなされているようです。

 
 

 そういった技術レベルの話を抜きにしても、元々これはインドカレーに数多ある「カレーらしくないカレー」の中でも特に日本人の嗜好に合ったものだと思います。スパイスの量や種類は少ないと言いましたが、青唐辛子の辛味や、メティ(フェヌグリーク)の独特な甘い香りが、これぞカレー、というべきミニマルで鮮やかな風味を醸し出しているのです。

 インドカレーのスパイスというとたくさんの種類を使うのが本格的と信じられている一面がありますが、実はむしろ数を絞った方がその香りはビビッドなものになることが往々にしてあります。このカレーでそのことを体感してみるのもまた面白いのではないでしょうか。

 私の知る限り「モイリー」がレトルト商品化されているのは日本でこの一点だけだと思います。そういう意味でも必食です。

 

2021.02.07(日)
文=稲田 俊輔
写真=今井知佑