よくある甘い味わいと一線を画す「バターチキン」

 数ある無印のカレーのなかでも特に人気のあるカレーです。食べるとそのバランスの良さに唸ります。一般的にインド料理専門店のバターチキンは、トマトをベースにしつつもそこにふんだんにクリームやナッツペーストが加えられ、さらにはっきりとした甘みを加えた「デザートのような」と評されることもある仕立てが主流。しかしそれはあくまでナンと合わせることを前提とした、カレーとしてはかなり異端のバランスです。

 そこを無印のカレーはより「カレーらしい」バランスに着地させています。乳製品のコク、トマトの酸味と旨味、やや抑え気味の甘さ、それらは何かが突出することもなく、結果的にこれまで欧風カレーに慣れ親しんでいた人でも違和感なく受け入れられる味わいの構成。また、そのバランスゆえにナンではなくライスとの相性も抜群です。

 
 

 スパイスの配合もその着地に合わせたものになっています。専門店の「デザートのような」バターチキンの場合は、カルダモンをやや極端に強調することで「お菓子感」がより強まっていることも多いのですが、無印のバターチキンはそこもぐっとスタンダードなインドカレー寄りのスパイスブレンドにチューニングされています。そしてそのことで誰もがすんなり「食べたことない味わいだけどおいしいカレー」と感じる味わいになっていると思います。

 インドカレー初心者の方にも太鼓判を押しておすすめできる間違いのない逸品です。

 

インドの大衆食堂の味を思い出す「スパイシーチキン」

 ひと口食べた瞬間、インドの旧都市デリーの大衆食堂の味を思い出しました。「スパイシー」とあるだけに、しっかりとした辛さがありますが、それ以上にクローブとシナモンが醸し出す甘く骨太な香りが印象的です。その香りに合わせるような炒め玉ねぎのコクと微かな酸味。

 酸味はトマトの他にヨーグルトにもよるものかと思いますが、原材料をよく見るとわずかに「りんご酢」が加えられているようです。ヨーグルトの酸味が高温の加熱で弱まってしまう分の補填というイメージでしょうか。そんなところにも高い技術とこれまでの経験が生かされているように感じます。

2021.02.07(日)
文=稲田 俊輔
写真=今井知佑