バターチキンと比べると好き嫌いが分かれる味かもしれません。スパイスのバランスがいわゆる日本式の「カレー粉」とは大きく異なるクラシックなインドカレーのそれだからです。このことは同時に「インドカレー好きにはたまらない」ということであるとも言えます。

 そして昨今の「スパイスカレーブーム」が示唆するように、こういう(日本人から見ると個性的な)香りのカレーが好きになり始めている層は実はかなり厚い。実際にこのカレーは比較的最近加わったラインナップであるにもかかわらずあっという間に売り上げ上位に食い込み、主力定番商品の仲間入りを果たしたようです。

 実はこういったタイプのチキンカレーは日本の北インド料理店では案外出会えないものの一つ。そういう意味では、最近スパイスカレーが好きになり始めた人だけではなく、筋金入りのマニアでもニヤリとするであろうカレーでもあります。

 

意外な色合いと香ばしい香りに裏切られる「ココナッツチキン」

 これもまたマニアなら袋を開けた瞬間その色合いと香りにニヤリとするかもしれません。ココナッツとあるのでタイカレーのような白っぽいマイルドなカレーを連想する人もいるかもしれませんが、実際の中身は濃い褐色。

 カレーにココナッツを多用するのは南インドカレーの特徴のひとつですが、その使い方には大きく2種類。ココナッツミルクの乳化が解けないように慎重に仕上げるやり方と、しっかり加熱してその香ばしさも引き出す方法。こちらはその後者となります。

 
 

 さらに印象的なのがカレーリーフとマスタードシードの香り。どちらもスパイスとしては比較的穏やかな香りながら南インドカレーの芯の部分を支えるしたたかな力強さがあります。その他のスパイスの香りも含めて極めて重層的な味わいで、こちらは南インドの高級レストランを思わせる典雅な味わいに着地していると感じました。

 マニアの方には「どこか『チキンチェティナード(タミル地方の交易都市チェティナード名物のスパイスをふんだんに使用した名物カレー)』的な趣もある」と説明するとわかりやすいかもしれませんね。

2021.02.07(日)
文=稲田 俊輔
写真=今井知佑