名称がすでに“わかっている”「パラックパニール(ほうれん草チーズカレー)」

 これは袋を開封する前からまず名称にニヤリです。ほうれん草のペーストをベースとした緑色のカレーなのですが、このタイプのカレーは日本ではパラックではなく「サグ」と呼ばれるのが一般的です。しかし実はサグというのは正確にはアブラナ科の、日本で言えば「菜花」などに近い野菜の総称。ほうれん草を使う場合はこの「パラック」がより正鵠を得ています。

 地方によっては「サグ」を、アブラナ科を中心としつつ青菜全般の呼称に用いるケースもあり「サグ」でも完全な間違いとも言い切れないのですが、何にせよこういう部分でも、「本場を伝える」というポリシーにこだわる、そのスタンスが滲み出ているんですね。

 日本のインドカレーと本場のそれの大きな違いとして、日本ではチキンやキーマなどの肉系(ノンベジ)のカレーが中心なのに対してインドでは植物性の原料および乳製品のみで構成された「ベジカレー」が中心という点がありますが、このカレーはそのベジカレーです。

 
 

 無印良品ではこのパラックパニールの他にチャナマサラなどいくつかのベジカレーをラインナップしています。肉や魚介を使わないというのはすなわち日本人が好む「旨味やコク」を構築するのが難しいということでもあるのですが、このカレーに関してはそういう物足りなさをあまり感じさせない仕上がりになっているのはさすが。野菜としては比較的旨味が潤沢な素材であるほうれん草やトマトをふんだんに使い、やや強めの塩気とオイルでその食べ応えをブーストしている印象です。

 主役となるパニール(インド式カッテージチーズ)は、前編でも記した通り独自の国内生産なのですが、インドのそれよりもう少しホワホワしたソフトな食感に仕上げられているのも芸が細かい。日本人が大好きなモツァレラチーズにもどこか似た、ミルキーな味わいがより鮮明に感じられる仕上がりです。

おすすめの買い方は「2個買い」

 今回ご紹介したのはラインナップのごく一部ですが、無印には他にも魅力的なカレーが沢山あります。売り場に立つとついつい目移りして何を買うべきか迷いに迷ってしまうところですが、最後に私がおすすめの買い方をひとつ。それは「2個買い」です。

 ひとつは味の想像がつきやすい、もしくは過去に食べて気に入ったものを選んだならば、もうひとつは聞いたことのないような名前の「怪しい」カレーを選ぶこと。そんな買い方がしやすいように一部のラインナップは「小さめサイズ」が用意されています。これをうまく使ってカレー専門店で言うところの「合いがけ」を楽しむのです。

「怪しい」とは書きましたが、そこに少なくともハズレは無いことは私が保証します。その体験を通じて、無限ともいえる本場のカレーのバリエーションの一端にぜひ触れてみてください。体験と味覚の幅を広げることで、今後の皆さんのカレーライフにおける幸せ度は確実に向上するはずです!

写真=今井知佑/文藝春秋

2021.02.07(日)
文=稲田 俊輔
写真=今井知佑