美しい白黒映像で描き出す虚実入り混じった逸話
◆『Mank/マンク』
1941年、のちに“映画史上屈指の名作”と呼ばれることになる、1本の映画が誕生しました。
新聞王ケーンの謎に満ちた生涯を綴る『市民ケーン』です。同作を26歳の若さで監督したオーソン・ウェルズとともに、脚本にクレジットされているマンクことハーマン・J・マンキウィッツが、『Mank/マンク』の主人公に他なりません。
「『市民ケーン』の脚本はマンクがひとりで書いたのではないか?」という真偽の定かならぬ逸話に端を発した物語を、美しい白黒映像で描いたのが『Mank/マンク』です。
別荘に缶詰になって脚本執筆に励むマンクが折に触れて思い出すのは、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストとの蜜月。2人はかつて友愛に満ちた関係を築いていました。
しかし、1934年のカリフォルニア州知事選の際、マンクが革新派を支持する一方、ハーストは映画会社MGMの重役ルイス・B・メイヤーと手を組んで保守派候補者が勝つように仕向けたのがきっかけで、2人は決別します。
興味深いのは、ハーストらが悪意に満ちたニュース映画でネガティブキャンペーンをしたこと。今も昔も選挙にはフェイクニュースが付き物だったようです。
これでハーストに失望したマンクが、彼の人生を元ネタにして書いた脚本こそ、『市民ケーン』というわけです。
監督は『ファイト・クラブ』や『ゴーン・ガール』のデヴィッド・フィンチャーで、マンクを演じているのはゲイリー・オールドマン。
完璧主義者として知られるフィンチャーは、オールドマンの登場したあるシーンを100テイク以上も撮り直したそうですが、その成果はきっちり実を結んだ壮絶な1作になっていると思います。
◎あらすじ
『Mank/マンク』
名作『市民ケーン』の脚本家として知られる、マンクことハーマン・J・マンキウィッツが、同作のネタとなった自身の経験を回想する。脚本を書いたのは、監督であるデヴィッド・フィンチャーの父、ジャック・フィンチャーだ。
2020.12.24(木)
文=鍵和田啓介