40歳を前にラップに目覚めた女性の再出発の物語

◆『40歳の解釈: ラダの場合』

 NYで劇作家として暮らす黒人女性のラダは、もうすぐ40歳になろうとしていました。しかし、嬉しいことなどひとつもありません。

 業界紙で「将来有望な30歳未満の30人」に選ばれたこともあったが、今となっては遠い昔の話です。ここ数年は新作発表すらままならず、高校生向けの演劇ワークショップで日銭を稼ぐ日々。

 このままじゃいけないと劇場主にかけあってみるも、芳しい返事はもらえません。何もかもうまく行かず部屋でひとり号泣していると、窓の外から聞こえてきたのは通りがかりの車が爆音で流すラップ音楽。

 これに触発されて、「坐骨神経痛が苦痛」とか「なぜ肌がこんなに乾燥するのか」とか「なぜ我が家に高齢者向けのチラシが入っているのか」とか、気持ちの赴くままに“40歳のリアル”を吐露してみれば、なかなか気持ちいいではないですか。

 かくして、ラップという新しい表現方法を手に入れた彼女が、それを武器に再び表舞台に返り咲こうともがく姿を描くのが本作です。

 そこには主演と監督を務めたラダ・ブランク自身の人生が、多分に反映されているそう。

 ブランクが初めて手がけた長編映画である本作は、劇中のラダにとってのラップと同じく、彼女の人生を変える作品になったようです。

 ブランクはこの作品で、2020年のサンダンス映画祭の監督賞を受賞しているのが、その何よりの証拠でしょう。

 何歳になろうとも、人生をリスタートすることはできる。本作やブランクの人生が物語っているのは、そんなメッセージではないでしょうか。

◎あらすじ

『40歳の解釈: ラダの場合』

四十路を目前にひかえ、お先真っ暗な劇作家のラダが、ラップという新しい表現方法で再起を賭ける。主演と監督を務めたラダ・ブランクは、RadhaMUSprimeという名義でコメディアンやラッパーとしても活動している。

2020.12.24(木)
文=鍵和田啓介