「ハグしてあげるくらい、自分に愛情を」

 元トップアスリートとしてあえて「カミングアウト」することに、使命を感じている。

 「まだファンの方たちが覚えてくれているといいんですけど。元プロ選手というプラットフォームを使うことによって、いろいろな方たちにパワフルなメッセージを送ることができればと思っています。

 人生のなかで辛いことが一切ない人なんていないけれど、マイノリティーの方はなにげない日常生活の中で困難が多いのも事実。自分の感情を押し殺したりせず、悩み、苦しむ自分がいてもいい。自分をハグしてあげる、というくらい大きな愛があればいろいろなことはいい方向に変わってくる。自分に対する愛情を持ってほしいのと、それくらい大きな愛をもった人が、世の中にはいっぱいいるよ、というメッセージをみんなに知ってほしいと思います」

 男性主体で封建的なスポーツ界はLGBTがなかなか受け入れられない土壌があり、「ファイナルフロンティア」と表現される。10月11日には、東京五輪・パラリンピックの開幕に向けて、性的少数者の情報発信拠点となる「プライドハウス東京レガシー」が東京・新宿区にオープン。ヒルさんも、元トップアスリートとしてメッセージを伝える役割を担う。

 「自分のありかたはそれぞれ。男性だから、女性だからだからこうしなきゃいけないというのはないし、自分の表現の仕方、あり方は思うままでいい。ただ、現実問題としてスポーツ界の受け入れ態勢など課題はある。LGBTQ+をサポートするのに、そのコミュニティーに属している必要は決してありません。ベターな環境を作るために、さまざまな分野の人々が協力し合い、一歩ずつでも共に前進していけたらと思います」

2020.11.05(木)
文=佐藤春佳