知的な上目遣い、人間的な色気……いずれも難易度10の引力
『眺めのいい部屋』という映画を観ただろうか。その後、極めて個性的な役ばかりを演じてきた怪演でお馴染みヘレナ・ボナム=カーターが、弱冠18歳で主演しているが、その初々しさ瑞々しさにまず圧倒される。
物語の中でも言葉少なに相手を見つめるだけでほぼ一目惚れされる役を演じるが、この人ばかりは眉の太さ、媚びのない上目遣いの目だけで人を魅了することができる稀有な女優と確信した。その上目遣いも手伝ってか、演技とは思えない、彼女自身が天性持っている“知的な人懐っこさ”というものが誰をも惹きつけてしまうのである。
なぜ彼女が、『ビッグ・フィッシュ』の魔女役から、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』のやばい女主人まで、いつも猛女を怪演しているのか不思議だったが、逆に言えば本人がそもそも魔女のような人、でも愛すべき魔女だからなのだ。
どんな悪役をやっても何か憎めない、そのあたりまさに“知的な人懐っこさ”がなせる技なのだろう。マスクをつけても消えない引力、アザとさゼロで難易度10の媚びない上目遣い、ぜひ学んでほしい。
そして今、ハリウッド最強女優の呼び声も高いマーゴット・ロビーは、マスクをしようが何をしようが、全身から人間的な色気が溢れ出てしまう人。遅咲きながら『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で注目を浴びた時も、パーティー会場に入ってきただけで、会場全体がざわめくほどの“いい女”を演じた。
正直、そこまで強烈な“いい女”は演技やヘアメイクだけじゃ無理。本人の中からにじみ出るものがないと。事実この人は何の役をやっても何やら強い力がにじみ出る。それは性的な色気ではなく、人間力とも言える生物学的色気……。
そう、色気とはフェロモンとも訳せる不思議な気の力、マスクなど平然と通り抜けてしまうもの。だからどんな役をやっても、劇的なまでの存在感を放つのだ。
全身から発せられる気配のオーラ、それが美女を演じた時には見事な色気として濃厚に弾け出るが、ライバル殴打事件の主役であるフィギュアスケートの問題児から、シャロン・テート事件の主役である惨殺されたハリウッド女優まで、アクの強い異色の実在人物を演じることが多いのも、その人物が持つ強烈な個性に負けないだけの、魂の強さのようなものを持っているせいなのだろう。
このマーゴット・ロビーが無名に近い時代に出演したのが『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』。青年の初恋の女性として登場するが、この時もまさに男のタイムトラベル能力を通して、彼女が若くして持つ人間的色気を描いていたような気がするのだ。
◆『眺めのいい部屋』(1986年)
ヘレナ・ボナム=カーター扮する名家の令嬢が、旅先のフィレンツェで出会った男性に恋に落ち……。美しい映像で綴ったラブロマンス。
Goldcrest Films / Allstar Picture Library / Zeta Image
◆『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)
実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの回想録を映画化。マーゴット・ロビーはジョーダンの妖艶な妻、ナオミ役で出演。
Paramount Pictures / Photofest / Zeta Image
2020.10.19(月)
文=齋藤 薫