あるひとりの読者のために プロが特別に選書!

 「CREA」の創刊30周年記念として読者にプライスレスな体験をプレゼントする企画の第2弾は、本誌でも好評連載中のBOOKライター・三浦天紗子さん、吉田大助さんのおふたりが、個人的に5冊の本をセレクトするというもの。

 「CREA」2020年1月号で募集したところ、数多くの応募をいただきました。好きな作家や影響を受けた本、趣味、現在の悩みなど、当選者4名が書いた詳細なカウンセリングシートを元に、プロが選んだ計20冊を4回にわたってレポート。

 第3回目は、三浦さんがあるひとりの読者に選んだ5冊をご紹介します。


人生設計に迷う日々から逃避したい……

 普段は自己啓発や賞を取った作品など、話題の本が気になるタイプという、ちゃぼこさん(30代・女性)は、影響を受けた本に、『夢をかなえるゾウ』『ソフィーの世界』『モモ』『氷点』『夜と霧』『沈默』『春と修羅』などをあげていらっしゃいました。

  「ロシア文学は、登場人物の名前を覚えられずついていけず……でも、海外作品ではアガサ・クリスティーが好きで、推理ものを中心にイギリスのドラマもよく見ています。

 現在の悩みは、人生設計がなかなか立たないことでしょうか。現実とかけ離れた世界に浸れる本を知りたいです」

 そんな、「現実ではない世界に浸りたい」という要望も意識して5冊を選んだという三浦さん。

  「影響を受けた作品群から浮かんだキーワードが、戦争、生命倫理、究極の選択でした。話題の本がお好きということでしたので、知られざる名作よりは、一時期ベストセラーリストに上がっていたような作品から、まだ読んでいらっしゃらないような本を。

 人生設計って、誰もが何度も設計変更を迫られる課題という気がします。確固たる目標や信念などなくても、これはイヤだな、と逃げ勝ちもありだし、目の前の困難をまずクリアという消極的な設計もあり。そのヒントになれば」

#01 ラストに明かされる圧巻の真相とは

『ベルリンは晴れているか』
深緑野分

 1945年7月。終戦直後の荒廃したドイツで、ある篤志家が毒殺された。その殺人事件を軸に、家族と死に別れた孤独な少女アウグステの生い立ちから現在までと、アウグステの人探しの物語が交互に語られていく。

 「戦争という極限状態においては、あらゆる正義も倫理も揺らぎ、弱者を切り捨てることが簡単に行われてしまいます。『夜と霧』にも通じる世界があるかと思い、選んでみました」

#02 本の中の本に潜る快感を

『熱帯』
森見登美彦

 「誰も最後まで読んだ人はいない」という稀書『熱帯』。著者は実在するのか、途中まで読んだという人々の記憶が食い違うのはなぜか。そんな魅力的な謎を追うさまざまな視点人物にリレーされながら、物語が進む。

 「自分が堂々巡りをしているのではないかと、先が見えない感覚に陥るのも本書の醍醐味。“本と私”の物語でもあるなと思います。『夜行』とどちらがいいか最後まで迷ったんですが、まだ文庫化されていないこちらにしました」

#03 上質で華麗な本格ミステリー

『開かせていただき光栄です』
皆川博子

 舞台は18世紀のロンドン。解剖学を研究する外科医ダニエルのもとに、特異な2つの死体が現れ、その事件を解いていくというストーリー。

 「ミステリーとして極上かつ、当時の世相などもわかりやすく、ユーモアも感じるという豪華な物語です。また、ダニエルの助手たちがとにかく魅力的で、必死にその時代をサバイバルしていく力強さにも励まされます。続編『アルモニカ・ディアボリカ』もあるので、そちらもぜひ」

2020.06.23(火)
文=CREA編集部
撮影=平松市聖