台湾はピンク、日本は白。色で揉めるマスク事情
いまや台湾の防疫を象徴するマスクだが、先日、一大ムーブメントを生んだ出来事があった。管理販売では、マスクの色柄は、いわゆる“おまかせ”で、薬局ごとにデリバリーされるマスクは異なるうえ、同じ薬局でも日によって違うものが届く。
大人用の大半を占めるのが水色のプリーツマスクだが、ピンクやイエロー、賛否の分かれるヒョウ柄が出ることもある。いつぞやは台湾の国旗柄の立体マスクが出て、大きな話題に。
また、近頃目立ってきたのが、ビビッドカラーのマスクで知られる「CSD中衛」の人気商品。老舗医療消耗品メーカーによるサージカルマスクで、黒とエンジのバイカラーや北欧ブランドが好んで使う深緑など、ファッション性の高さが際立つ。受け取った人の気分が上がれば……と、生産ラインの一部をカラーマスク用に充て、一般的なマスクと一緒に納品しているのだという。
以前の市価は1枚12元(約43円)ほどだったので、これが管理販売の均一価格の5元(約18円)で引き当てられたら価格面でも“大当たり”だ。そんなふうに巷では“マスクガチャ”を楽しんでいる向きも出てきている。
今朝も、駅へ向かう人々のマスクをウォッチングしながら、これが日本だったら「均一価格の管理販売なのに、ばらつきがあるのは不公平だ!」と問題視されたりするのだろうか……と、ぼんやり考えていた。
もちろん、ばらつきが原因の問題も起きた。
子ども用は、もともとサイズも色柄も多様で、母親たちの間では、自分の子どもに合わないサイズに当たってしまうのが悩みの種となっていたが、子どもたちにとって、より深刻だったのは、色柄のほうだった。
それは「子どもがピンクのマスクで学校に行きたくないと言っている」という声によって明らかになり、これを受けた中央流行疫情指揮中心(中央感染症センター)は、4月13日(月)の定例会見で、指揮官・陳部長を筆頭に、会見に出席した男性全員がピンク色のマスクで登壇。
陳部長は「マスクの色に男も女もない。こうした非常事態のなか、防護力を発揮できるマスクであれば、それが最も素晴らしい色だ」「自分の子どもの頃は『ピンクパンサー』が流行っていて、それを見るのが好きだった」などと語り、台湾中から拍手喝采を浴びた。
そして様々な組織が公式HPのロゴやFacebookなどをピンク色にアレンジして、このムーブメントに彩りを添え、マスクの色を通じてジェンダーフリーを再確認する大きなうねりを作り出した。
もともと季節感や年相応といったファッションへのこだわりが少なく、日本ほど人目を気にしない台湾では、中年男性がピンクのマスクを着けていることも珍しくなく、前述したヒョウ柄でキメているおじさまを目撃したときは「なんて素敵な国なんだ」と心を打たれたものだが、この会見の後は、男性のピンク着用率がぐっと上がったように思う。
子どもの通う國小(小学校)でも、高学年の男子がピンクのマスクで堂々と登校していて、それはそれは爽やかで格好良く、彼はよそ様の御子息だが、何だかとても誇らしく、胸がいっぱいになった。
日本では、この非常事態においても「マスクは白に限る」という校則を掲げている学校や企業があると聞く。先の会見で陳時中部長は「台湾には今、十分な供給量のマスクがある。それだけでもとても幸せなことなのだ」と語っている。
マスクの色の問題でお困りの際は、ぜひ、この台湾の会見のエピソードを引き合いに出して、大切なのは機能であり、色ではないとマスクの色の自由化を訴えてほしい。
※記事の内容は2020年5月7日(木)現在のもの。制度や現況の内容は一部であり、各自治体、エリアなどによって異なることもあります。
堀 由美子 (ほり ゆみこ)
ライター。慶應義塾大学文学部を卒業後、広告制作会社にて、大手メーカーのブランドコピー、商品バッケージ原案等を担当。ライターとして独立後は、女性誌にて多ジャンルにわたる特集に携わる。2011年より台湾在住。現在、CREA WEBにて、台湾発の占い連載・悟明老師の「神鳥さん占い」「世界の空気」を担当。占いの執筆に際しては、イタコとして“お告げの一言一言の熱量を変えることなく、クリアに伝える”をモットーとしている。
台湾防疫成功のなぜ
現地ライターが考察
2020.05.15(金)
文・撮影=堀 由美子
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