新型コロナウイルスの封じ込めに成功し、評価を高めている台湾。なぜ台湾はうまくいったのか? その秘訣を現地在住日本人ライターが3回にわけて、徹底検証!
市民レベルの防疫は、高水準をキープ
国内感染ゼロが連続25日を記録、新規感染者数がゼロの日も多く、遂に新型コロナウイルス感染症の封じ込めに成功か? と日本にも伝わった、台湾の新型コロナウイルス対策。
早い時期からの武漢便の停止、出発国の危険度に応じた入境制限と隔離などの健康観察が奏功して、感染者数を抑えてきた台湾。
2020年3月19日(木)に事実上の鎖国をしてからは、新規感染者は隔離または自宅待機中の海外帰国組とその関係者が大半で、感染経路が不明な確定者は10人にとどまっている。
政府が水際対策でウイルスを極力ブロック、それでも防ぎ切れないウイルスの拡散を国民の努力で阻止。努力とは、マスクの着用と手洗い、そして消毒の徹底だ。
マスク着用と手洗いについては、かなり早い時期から多くの人が実行していたように思う。もともと咳エチケットへの意識は高く、それは電車内で痛いほど感じる。
例えば、誰かが咳をすると、その人物に視線が集まる。
当該者がマスクをしていれば、人々は視線を元に戻す。しかし、ノーマスクなら車両を移動する人が出てくる。このとき、人々の脳裏には、SARSの悪夢が蘇るのだと思う。
以前、「私はただの喘息持ちです。風邪ではありません」と書かれたプラカードを首から下げている女性を見たことがあるが、彼女の行動にも、咳からの飛沫感染を恐れる人々の心理がよく表れている。
当時の政府が黙認してきたため、PM2.5には長く無頓着であった台湾の人々も、咳には非常に敏感で、鞄にマスクを常備している人も少なくない。私自身、息子が急に咳き込んでもいいよう、子ども用マスクを持ち歩いている。
ただ、マスクの効用が主に無症状感染者が他人にうつさないためのものだという認識がどの程度あるのかは少々疑問で、単にうつりたくない一心で着用している部分もあるだろう。
感染者数が減るたびにノーマスクが増えるのは、その証左といえるかもしれない。動機がなんであれ、強制されずとも高い着用率が維持できているのは、皆にとって幸いなことである。
国内感染ゼロが続き、皆の気が緩みはじめていた5月初旬、中央感染症センターは「陽性患者と健康な人の双方がマスクを着用した場合、感染の確率は1〜2%に抑えられると推測できる」との見解を発表し、マスク着用の重要性を強調。この見解が今後の台湾のみならず、全世界に広まることを願いたい。
公共の交通機関でマスク着用が義務づけられたのは、鎖国後の4月4日(土)のこと。その頃には、国内感染は抑えられていたので、購入可能枚数が2週間で9枚まで増え、十分に行き渡るのを待ってから施行に踏み切ったようにも思える。※増量マスクの販売は4月9日(木)からだったが、増量の発表は3月30日(月)。
同じ頃、スーパーやコンビニなど、多くの場所でマスク着用が必須となった。この流れにより、ようやく在台欧米人がどうにかマスクをするようになり、10代の学生の顎マスクも見かけなくなった。
隙あらばマスクを外す人々を横目で見ながら歩いていて、ふと気がついた。外国人と若年層。強制されなければマスクをしない層、それは2003年のSARSの恐怖を知らない人々だ。もちろんそれ以外にも、危機感の薄い人は一定数いる。
手洗いについて日本をリードしていると感じるのは、石鹸液の設置率の高さだ。ちょっと汚めのトイレであっても、手洗い場には何かしらの石鹸が置いてある。お徳用ボディソープが鎮座していることもあるが、これも立派な洗浄液だ。とにかく石鹸を、というのはSARSの経験から来るものだろう。
水だけでは洗った気がしない私としては、石鹸の設置は本当に有り難い。見ている限り、新型コロナの発生前から、多くの人々が石鹸を使って洗っているように思う。
そして新型コロナ以降、衛生福利部の啓蒙コマーシャルをはじめ、さまざまな動画やティップスが出回り、手洗いへの意識は確実に高まっている。
フードコートなどで観察していると、手を洗わない筆頭の父親層も石鹸をつけて洗っている。日本も台湾も、いつでも安全な水で手を洗える水道がある。こんなに恵まれた環境にいながら、手を洗わないのは罰当たりともいえる。ふんだんに水を使える生活に感謝しながら、正しい手洗いに励みたい。
ただ、少し残念なのはハンカチを携帯する習慣がないため、ブンブン手を振るか、髪を梳かしてごまかす人が少なくないことだ。ハンカチで拭かずとも、すぐに乾く気候だから、問題ないのかもしれないが……。
また、飲食店のなかには、お金を触った手で調理に入る店員も少なくない。ただ、いちいち手を洗っていられない小吃店(B級グルメなどの軽食店)のなかには、小銭箱に自分で入れてお釣りを自分で取るスタイルのお店が心なしか増えてきたように感じられる。
2020.05.17(日)
文・撮影=堀 由美子