■星野リゾート 星のや京都(前篇)
国内のみならず海外に至るまで、さまざまなロケーションに魅力的な施設を展開する星野リゾート。その星野リゾートが、今、特に力を入れているのが「ウェルネス」です。
この連載では、バラエティに富んだアクティビティ、そしてオーガニックな食事などが楽しめる、ヘルスコンシャスなステイを各地からご紹介します。
船で優雅に川を上り、渓谷にたたずむ隠れ家へ

かつて平安貴族が別邸を構えていた雅な土地、京都・嵐山。その一番の名所である渡月橋から専用船で大堰川を遡ると、やがて水辺に優雅な日本家屋が現れる。渓谷の中にひっそりと佇むこの建物こそ、旅の目的地、「星のや京都」だ。

船を降り、渓谷に沿うように続くメインストリートを歩いてフロントへ。滝を落ちる水音と、オリエンタルな音色の楽器演奏に迎えられると、しだいに、雑念や心の乱れが取り払われていく。

この場所には、かつて、江戸時代初期の豪商、角倉了以(すみのくらりょうい)の別邸があったという。私財を投じて大堰川を開削し、水路での運搬を実現した彼は、京都の経済発展に大きく寄与した人物でもある。

そんな偉人が愛した地に今あるのは、「星のや京都」と、角倉が移築建立し晩年を過ごした「大悲閣千光寺」だけ。ほかに建物はなく、「星のや京都」の送迎船はゲスト専用のため、敷地内はプライバシーが保たれている。まさにここは、全25室だけの「私邸」といってもいい。

客室はすべて、大堰川や小倉山を望むリバービュー。部屋は5タイプあり、それぞれに日本建築の意匠を凝らした空間から、奥嵐山の自然を望むことができる。

なかでも、絶景を独り占めできるのが、大きな窓を設えた特別室の「月橋」だ。「星のや」オリジナルの畳ソファに身を沈めて眺める風景はまるで絵画のよう。眼下には、川を優雅に往来する小船も見える。ソファやテーブルの重心は低く、畳の上に素足でくつろげば、一気にリラックスモードに。

聞こえてくるのは、せせらぎや鳥のさえずり、葉擦れの音。奥嵐山ならではの時の移ろいを感じながら過ごせば、いつしか「日本の四季って、こういうものだったなあ」と思い出す。求めていたのはこの非日常感。もう何もしたくない。ただただ、こうしていたくなる。
2020.01.18(土)
文=芹澤和美
撮影=鈴木七絵