お小遣いと外食につられて……

【近田春夫絵画館①】
《弱肉強食の掟或いは不憫》
勝つのは果たして数なのか大きさなのか。いずれにせよそこに繰り広げられているのは絶対のたたかい/あらそいなのである。だが残念なことに、たといそれがどんな宇宙においての話であろうと、勝者さえいずれはひからびて消滅していく運命なのだということを誰も知らぬ。
【近田春夫絵画館①】
《弱肉強食の掟或いは不憫》
勝つのは果たして数なのか大きさなのか。いずれにせよそこに繰り広げられているのは絶対のたたかい/あらそいなのである。だが残念なことに、たといそれがどんな宇宙においての話であろうと、勝者さえいずれはひからびて消滅していく運命なのだということを誰も知らぬ。

 それからずっとしばらくは母親にピアノを習っていたんですけど、やはり親に教わるというのは、こちらとしても相手が先生と思えないものですから、具合が悪い。次第に反発を覚えるようになりました。

 小学4年生ぐらいだったでしょうか、その頃はもう母親の言うことを聞かなくなっていたので、ある日、母親が「じゃあちゃんと先生に付いて習った方がいい」と僕に告げまして。

 ピアノはもう続けたくなかったんですけど、母親が提示した交換条件が魅力的だった。「10分練習したら10円あげる」というんです。

 当時のお小遣いとしては悪くないなあと思って、それとバーターで、ある先生のところまで、毎週木曜日に通うことになったんです。

 私の自宅は等々力にあったんですが、先生の家は巣鴨にあった。そうすると、帰宅が遅くなるので、その日はどこかで外食をさせてくれた。

 お小遣いと外食につられたわけですが、その先生というのが、松原緑さんというピアニストの方でした。この先生、実はソニーの社長、会長を歴任した大賀典雄さんの奥さんなんですね。

 高校ぐらいまでは松原先生に習っていたんですが、さすがにその齢になると、自分にはクラシックは無理だということに気づくわけです。

 そして、打って変わってロックの世界へと足を踏み入れていくことになります。

» talk02に続く

近田春夫(ちかだ はるお)

1951年東京都生まれ。75年に近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。80年代以降はビブラトーンズなどを率いてバンド活動を続ける傍ら、タレント、ラジオDJ、作詞・作曲家、CM音楽作家など多彩に活躍する。86年にはプレジデントBPMを名乗って日本語ラップの先駆者となり、87年には人力ヒップホップバンドのビブラストーンを結成。96年からは週刊文春で「考えるヒット」を連載している。現在は、元ハルヲフォンのメンバー3人による新バンド「活躍中」として活躍中。2018年10月には、ソロアルバム『超冗談だから』をリリース。12月には、OMBとのユニット、LUNASUNのアルバム『Organ Heaven』が発売された。


近田春夫『超冗談だから』

ソロ名義としては38年ぶりとなるニューアルバム。作詞・作曲・編曲には、秋元康、のん、AxSxE、児玉雨子らに加え、筒美京平マニアの市井の作家などが参加。男性アイドルポップス、ラテン歌謡、ディスコ歌謡、シティポップなど、バラエティに富んだ10曲を収録。
ビクター 発売中 2,778円(税抜)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026255/VICL-65050.html

【取材協力】
本の場所

https://www.honnobasyo.com/