もふもふ愛好家の皆さま、お待たせしました。やっぱりネコが好き、いやイヌでしょ、という百年戦争はさておき、日本美術の中でもイヌネコは繰り返し描かれてきた。ころころした体とつぶらな瞳に悩殺される、和犬を描かせたら日本一の円山応挙が西の横綱だとすれば、江戸にあって無類のネコ好きとして知られる歌川国芳こそ東の横綱。常に十数匹のネコを飼っていたという国芳とその弟子たちの作品を中心に、ネコ系浮世絵ばかりを集めた展覧会が、太田記念美術館で開催されている。
浮世絵に登場する動物の中でもっとも数が多いのはネコだと言われるが、それにしても今展では集めも集めたり243点、2321匹。それだけ江戸の庶民に愛され、身近にいるのが当たり前の動物だったのだろう。
歌川国芳の描くネコは、ハローキティとはちょと違う
だが国芳描くネコの魅力は、いまや世界中で人気の「ハローキティ」のような可愛らしさとはちょっと違う。ブスかわいいというか、コワかわいいというか。ふてぶてしくしたたかで化け猫じみているような気さえするが、どこか憎めない愛嬌がある。人間の都合に振り回されるか弱い愛玩動物というより、うっかりするとこちらが足をすくわれてしまいそうな、クールな同居人、という雰囲気なのだ。
18世紀の末に生まれた国芳は、役者絵や美人画はもとより、武者絵、風景画、花鳥画、風俗画など、浮世絵のあらゆるジャンルに筆を染めた、多芸多才な絵師として知られる。いずれのジャンルでも斬新なアイディアを出し続け、ポップな画風で人気を博したが、これはただ国芳の才能にばかりよるものではない。
老中・水野忠邦による天保の改革は浮世絵にも波及、役者絵、遊女や風俗を描いた絵が禁止され、錦絵の出版業界は大打撃を受ける。だが国芳は唯々諾々と幕府の禁令に従うのではなく、その状況を逆手にとって、ネコや金魚などの動物を、ある時は役者に、またある時は遊女やその客に見立てて擬人化し、ユーモア溢れる戯画として描いた。そこに潜む諧謔精神や洒落、エスプリに、江戸っ子たちはやんやの喝采を送ったのだ。
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2012.06.09(土)