行き先は、松本、岩国、宮島、鹿児島など

表題作「山とそば」でほしさんが訪れた上高地帝国ホテル。山小屋風のレストラン「アルペンローゼ」のホットサンドイッチは絶品だとか

 ここに収められた旅日記は、全部で3篇。

 表題作の「山とそば」で訪れるのは、夏の信州。安曇野で小説家との合作に頭をひねり、松本で蕎麦に舌鼓を打ちつつ雑貨屋の充実ぶりに目をみはり、上高地では自然の壮大さと美しさに圧倒される。

「ヘビに巻かれて」の舞台は、岩国から宮島にかけての山陽路。元々は大の苦手だったはずのヘビに急速に惹かれつつあった著者が、岩国白蛇保存会の施設でシロヘビとふれあう様子は実に微笑ましい。抜群の観察眼が光る一篇だと言えよう。その後に赴いた宮島では鹿をめぐる妄想も展開。ほしさんの真骨頂を味わうことができる。

「カルデラのある町へ」では、鹿児島と熊本を周遊。ここのところ、洒落たカフェやインテリアショップが急増している鹿児島の街を満喫した後は、霧島や阿蘇の温泉でゆったり骨休めする。

 優しい人々との出会い、美味しい食べ物、かわいい動物、そして普段とは違う時間の流れ……。ああ、マイペースな旅っていいなあ。誰もがそう感じること間違いなしの一冊だ。ぜひ、続篇も読んでみたい。

ほしよりこ『山とそば』
新潮社 ¥1260

2011.12.22(木)