
ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部渡さんのカルチャーエッセイ連載第15回。突然「ファンクラブ」を爆誕させた澤部さんがその成り立ちと内容、悩みに悩んだ名前について綴ります。
どういうわけかファンクラブを立ち上げることになった。「そういうのあってもいいんじゃない?」と前からスタッフに言われてはいたが、「ファンクラブって言ったって、何やったらいいのよ?」と疑問もあって、ずっと及び腰だった。
及び腰になるのも無理はない。ファンクラブに加入するメリットを考えてみよう。ひとつは「チケットが手に入りやすくなる」。しかし、スカートは万年チケットが完売しないが、会場はパンパンに見える(それも東京公演のみ)バンドなのだった。もうひとつは「普段は謎に包まれたその人のプライヴェートに近いものが見られる」。しかし、私はあけすけにプライヴェートをインターネットの大海に晒すタイプのミュージシャンなのであった!
つまりファンクラブの名の下、メリットなしで人を集めることになる。そうしたら30人ぐらいしか集まらないんじゃないか。それに意味などあるのか……? と自問自答を繰り返した結果、40代が目前となってきた今、とにかくなんでもやってみるんだよ、と開設が決定した。
どういう内容にしよう、ということをまとめていく時に、エッセイやレヴューを書きたい、というのが真っ先に浮かんだ。文章をもう一度自分のものにしたかった。好きな漫画や音楽、特に漫画について「こういうところがいいんです」と伝えたい時、どうしても考えがゴチャついてしまい、「とにかく読んでくれ」となってしまうのが近年の悩みだった。これは特に、時々出演させてもらっているTBSラジオ「アフター6ジャンクション2」で漫画について話す時に強く思っていたことで、とにかくこれを克服したかった。もう少し考える、ということに挑戦しなければならない。
最初はリアルタイムで触れた漫画や映画、音楽や小説について感想文を書くようなコーナーと、昔から好きな漫画や映画、音楽や小説について書くようなコーナーを設けよう、と考えていたのだが、その過程で「自分がどうやって音楽を聴いてきたのか」ということがぼんやりしていることをなんとかできないか、と思うようになった。
何年か前、奥田民生氏が籍を置くバンド、ユニコーンとどうやって出会ったかを思い出そうとした時に、古い日記(私はあけすけにプライヴェートをインターネットの大海に晒すタイプの一般人でもあったのだ……)を訪ねてみたら「先生が貸してくれたユニコーンのCDは、今でも覚えているがHMVの袋に入っていた」と書いてあって愕然とした。私は「HMVの袋に入っていた」ことを忘れていたのだ。忘れたいようなことを今でも覚えていて、忘れたくなかったことを忘れてしまっている。
文=澤部 渡 イラスト=トマトスープ
