いまの自分に必要なものをいつも選択できる自分でいたい

――ホルモン療法の影響で妊娠が難しい時期を過ごされています。結婚や出産についてはどのようにお考えですか?

矢方 26歳でホルモン療法を開始して10年間、36歳まで治療が続く予定です。ホルモン療法をしている間は生理を止めているので、妊娠の可能性はありません。治療を始める前に「将来子どもを産めなくなるかもしれない」とも言われ、かなり悩みましたが、卵子凍結はしないという結論を出しました。

 子どもは大好きなので、いつか結婚して授かれたらいいなとは思います。ホルモン療法を終えてから妊娠された方もいると病院の先生から聞いていて、未来は誰にもわからないので、いまは「いまの自分」にしかできないことを大切にしよう、と前向きな気持ちになっています。

容姿でなく声の仕事が増えたことも自信につながった

――どうしたら矢方さんのようにポジティブに考えられますか?

矢方 考え方ひとつだと思います。私もはじめは、胸が片方ないことで仕事にも支障がでるのではないかと不安でした。でも、こうしてインタビューしていただいたり、舞台や声優のお仕事のチャンスをいただけたりしています。そう考えると、そんなに落ちこまなくていいと思えるようになりました。

 とくに、声優やナレーション、舞台や歌など、容姿ではなく声で評価いただくお仕事が増えたことは、自分のなかでは大きな自信になっています。子どもの頃からの夢だったというのもありますが、声質や表現の仕方を褒めていただくたびに、自分が必要とされていると感じられて、生きがいにもなっています。

――自分に自信がつくことで、からだへの意識も変わりましたか?

矢方 いまは前ほど自分のからだが嫌いではなくなりました。もしかしたらこの先、医療技術が格段に進歩して、乳房の再建手術がもっと手軽にできる日がくるのかもしれません。でも私は自分が40歳、50歳になった時に、片方の胸があるかどうかにはこだわらないと思います。これからもこのからだをあたりまえのものとして生きていくのだろうと思っています。

――乳がんと診断された時に、乳房切除の決断ができない方も多いと聞きます。

矢方 「自分は強くないから、矢方さんみたいな選択はできない」と言われることがありますが、私を含め、乳がんサバイバーの方たちは「生きる」という選択をしただけです。決して強いわけではありません。つらい選択でしたが、結局、自分のからだのことは自分自身で決断するしかないのです。

 それでも選択の結果、私は好きな仕事ができて、楽しく過ごせています。失ったものや過ぎたことにとらわれるのではなく、いまの自分に必要なものをいつも選択できる自分でいたいと思います。

矢方美紀(やかた・みき)

1992年生まれ、大分県出身。アイドルグループ「SKE48」の元メンバー。2018年、25歳の時に若年性の乳がんで左乳房全摘出。現在も治療を続けながら、名古屋と東京を拠点に声優やタレントとしてテレビや舞台、ラジオ出演、ナレーション、講演会など幅広く活動中。

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この記事の掲載号

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