京都で今、一番元気なエリアといえば、御所南です。京都御苑の南側で、東は寺町通、西は丸太町通。南は御池通までのこのエリアに、ここ数年、続々と新店がオープン。2015年10月23日発売の「あまから手帖」京都特集でも、8店舗を紹介しています。その中から、肩肘はらずに愉しめる和食の新店をご紹介します。

注目の御所南、心地よき新星和食

 割烹というには気軽で、小料理屋、おばんざい屋というには凛としている。そんな頃合いの和食店が、京都には多々あります。話題のエリア・御所南に2014年1月オープンした「和しょく志喜」もその一つです。

付出八寸(900円)は、季節のあしらいが美しい。写真は秋の仕立て。

 7席のカウンターに座ると、まず供されるのが、付出八寸(900円)。ホウレン草のゴマ和え、エビの酒塩、小芋の衣かつぎ、銀杏の素揚げ……。けれん味のない惣菜はどれも優しい味わいで、じんわり身体に沁みて、いきなり食欲を突っつきます。「調理が僕一人なんで、お待たせしないようにと仕立てていたら、いつの間にか品数が増えてしまって……」と、照れ笑う店主の島津卓志さん。その心尽くしに応えて、ここは50を超える品書きを眺めつつ、できればゆっくり八寸に舌鼓を打っていただきたい。

左:パリパリの昆布まで食べられる、焼くもこ(1,000円)。
右:締めにおすすめは、特製サバ寿し(1貫250円)。

 さて、その品書き。旬のお造りに、琵琶湖産鰻の白焼き、松茸の土瓶蒸し、なごやフグ唐揚げなどなど、気取らない季節の味が並んでいます。私の写真で恐縮ですが、先日伺った際にいただいた「焼くもこ」(1,000円)は出色でした。

 幅広の昆布の上に、岩手から届いた鱈の白子(くもこ)をのせて焼き上げたもの。薄皮を歯でそっと噛み切ると、ホワイトソースのようにとろんと滑らかなくもこが流れ出て、昆布の旨みを纏ったミルキーな味わいが口中を満たします。すかさず、日本酒を一口。地元は嵐山の「丹山」純米(1合600円)なら、優しい味わいで、くもこの旨みにそっと寄り添ってくれるはず。

 さてさて、件の焼きくもこ、ここからが面白いんです。下敷きだと思っていた昆布を「適度に割って、どうぞ」とご主人。なるほど! 白子と昆布が磯の風味を互いに程よく交換し、こちらも美味なり。焼いた香ばしさも相まって、なんとも乙な肴となりにけり。

左:和食畑10年という島津卓志さん。女将の明子さんと、ほっこり温かくもてなしてくれる。
右:カウンターは8席、個室は1室で3~6名。

 丹波玉子のだし巻き 天然青のり入り(750円)の、だしの含み方。肉厚な特製サバ寿し(1貫250円)の〆具合。いずれも割烹の域。けれど、寛がせること、小料理屋のごとき。

 そうそう、実はご主人、京都の西側にある亀岡市の出身で、今も地元から通っているそうです。よく見れば品書きに、亀岡牛たたき風(1,600円)の文字。「野菜も実は地元産で。父が育てたものか、朝市から仕入れてきます」。ことさら謳うわけではないけれど、地元愛たっぷり。その控えめな按配こそが、この新星和食の心地よさなんだと、私は思うのです。

わしょく志喜
所在地 京都市中京区押小路通高倉西入ル左京町137
電話番号 075-201-6262
営業時間 17:30~22:30
定休日 月曜、月1回日曜不定休
予算 おまかせ5,000円~、一品料理なら8,000円程度

中本由美子(なかもとゆみこ)
あまから手帖 編集長。食雑誌を編み続けて23年。「あまから手帖」4代目編集長となり、6年目。“あまから”両党といいたいが、スイーツは苦手、アルコールは何でもござれ。晩夏から京都通いして編み上げた11月号「京都 気になる51皿」が2015年10月23日発売。「和食から中華、ビストロ、ラーメン、和洋菓子まで。連日食べ歩いて選んだ料理ばかりです!」。