京都は関西きってのイタリアン激戦区だということをご存知ですか? 昆布だしでパスタを茹でたり、京野菜をふんだんに使ったり。日本料理の歴史ある街だからこそ育まれた「京都イタリアン」に、2015年夏、新たな風が吹きました。大阪で長く愛された一軒のトラットリアが、装いも新たにリストランテとして祇園に登場。

祇園の艶めくリストランテ

 高島朋樹シェフが、これほど柔軟な方だとは思わなかった(失礼!)。2015年7月、オープンの報せをいただき、翌週に新店舗を訪ねたのですが、その店構えを見て絶句。大阪は南森町で人気を博した、あの元気でカジュアルなトラットリアの面影がみじんもなかったのです。

祇園の粋な町家リストランテ。エントランスは土間で、細長いアプローチを抜け、14席のダイニングフロアへ。奥には、5~9名が入る個室も。

 祇園の花見小路から、かの有名なお茶屋「一力亭」の紅殻壁沿いに東へ。情緒ある細道の先に、ぽちりと小さな灯り。なんとも艶っぽいロケーションを新天地に選び、さて、高島シェフはどんなイタリアンを展開するおつもりだろうか……。紳士なギャルソンに丁寧に迎えられ、和装の見事なアプローチを経て、ダイニングへと進むと、まず目に飛び込んでくるのはライトアップされた妙趣ある坪庭。お茶屋だったであろう京町家の太い梁、高い天井。そこに、ゆったりとテーブルが配されています。

左:2001年オープンの前店は、大阪のトラットリアの雄だった。野太い旨みを湛えた皿は、高島朋樹シェフの真骨頂だ。
右:祇園の一角にある京町家がイタリアンに変身。

 前店はアラカルト路線でしたが、一変、このリストランテは約10皿に及ぶコースのみ。画像がメインだけなので、ぜひ「イル チプレッソ」のホームページを見てみてください。高島シェフのモダンなクリエーションが目で解るはずです。

 「せっかく京都に来たのだから、地の素材と向き合いたい」。無口だけれど熱のあるシェフのそんな想いを支えてくれる地元の農家や魚屋を得て、直接店に届くもぎたて野菜と獲れたて魚介でその日のメニューを考えるという幸福な日々。ゆえに、この店の予約は嫌いな食材だけ伝えて、あとはシェフにお任せした方がベターなのです。

2015.11.19(木)
文=中本由美子
撮影=あまから手帖11月号「京都 気になる51皿」より