京都の家庭料理の代名詞「おばんざい」。大皿に盛られた「にしん茄子」や「万願寺のじゃこ煮」など、しみじみと美味しい家庭の味を楽しむなら、西木屋町のこの店をおすすめします。
京情緒と、おばんざいの美味しい店
おばんざい。漢字を当てると3種あるそうな。お番菜とすれば、番=常の、菜=おかず。お晩菜なら、夕飯のおかずか。お万菜は、万=山ほどおかずの種類があるってこと? いずれにせよ「京都の家庭で作られてきた惣菜」のこと。京都のお人に聞くと、昔から日常的に使う表現ではなく、「料理といえるほどのものではおへんけど……」という謙遜も込めた、ちょっとお行儀のよい言い方のようです。
私は京都出身ではないので、おばんざいといえば、食べに行くもの。「にしん茄子」「万願寺のじゃこ煮」「小芋の炊いたん」……。京都の旧きよき家庭の味はしみじみと美味しいものです。できれば、その味をぐっと深めてくれるような京情緒ただよう店でいただきたい。ほっこり、しっぽり、燗酒でも呑みながら……。
右:3代目の女将・伊藤美紀さん。
西木屋町の「れんこんや」の風情は格別です。創業は1950年。元は江戸時代に下級武士が住んだ五軒長屋だったそうで、“煮染めた”ような渋色の壁に降り積もった歳月を感じます。カウンターもいいけれど、私はちゃぶ台のある座敷が気に入り。「私はお愛想も言わないし、べたっとしたお付き合いもできません」と言う3代目の女将が、ええ距離感を保ってお客に接しておられるので、旅人でも気持ちよく過ごせます。
まずは、看板の「自家製からしれんこん」(700円)。自家製の辛子味噌がツンッと鼻だけじゃなく食欲も突っついて、さぁて食べますか! という気にさせてくれます。レンコンの小気味よい歯ざわりと、涙がにじむほどに辛い味噌。これは、飲ませます。私など、すぐにビールをやめて、燗酒です。ここはやはり京都の「月桂冠」か「冨士千歳」がよろしなぁ。
丹波のつくね芋に卵黄を和えた「たたきとろろ」(800円)、カツオ節に海苔、ウズラの卵を溶いてワサビといただく「にしきぎ」(600円)あたりは定番で、そうそう、若狭ガレイの一夜干しを刺身、焼き、吸い物と3度愉しませてくれる「わかさかれい」(1,600円)は必食です。茄子や万願寺唐辛子、海老芋にズイキと、季節の京都の野菜の炊いたん(煮物)も、ええ塩梅。締めのおにぎりがまた美味しくて……。自家製漬け物で最後にもう1杯。基本はナスとキュウリの糠漬けに、壬生菜の塩漬け、夏なら生姜の甘漬け、冬ならかぶら漬けなんかが付きます。この糠漬けの加減がまた頃合いで、ご飯も呼ぶけど、酒も呼ぶ。結局、「女将さん、もう1本つけてちょーだい」って、毎度の台詞になってます。
お勘定して暖簾をくぐり出ると、高瀬川のせせらぎ(飲み会帰りの若人の奇声にかき消されること多々ですが……)。わずかな川風を感じながら、河原町駅に向かうこと十数歩。ここで必ず振り返り、夜闇に浮かぶ「れんこんや」を眺めます。「たまらん、ええ風情やな~」。京都の夜の情緒ってこういうものだと、毎度しみじみ思うのです。
れんこんや
所在地 京都市中京区木屋町三条下ル山崎町236
電話 075-221-1061
営業時間 17:00~23:00(L.O.)
定休日 日曜(月曜が祝日の場合は営業、翌月曜休み)
予算 3,000~4,000円
中本由美子(なかもとゆみこ)
あまから手帖 編集長。食雑誌を編み続けて23年。「あまから手帖」4代目編集長となり、6年目。“あまから”両党といいたいが、スイーツは苦手、アルコールは何でもござれ。本誌で主に日本料理と寿司を担当してきた経験を生かし、2014年『京都和食100選』を出版。「この一冊で、京都でいま行くべき和食が分かります!」
「あまから手帖」編集長がセレクト!
いま京都で食べたい5つの「とっておきレストラン」
2015.10.19(月)
文=中本由美子(あまから手帖 編集長)
写真=『京都和食100選』(クリエテ関西・刊)
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