近鉄・奈良駅から大宮通りをまっすぐ東へ。東大寺や春日大社を過ぎると、シーズン中でも観光客が少なくなってきます。そのあたりからが、春日山遊歩道。沢を流れる水音を聞きながら歩くと、古い休憩所の看板が下がる道沿いの建物に、イタリアの国旗が揺れています。
その古民家が、『レ・カーセ』。2011年12月にオープンしたキッシュ専門店です。
店内のショーケースには、10種類以上のキッシュとパイがずらり。プレーンやキッシュロレーヌだけでなく、カプレーゼやボロネーゼとネーミングされたものや季節の野菜を使ったもの、季節のフルーツのパイなど、多彩で、どれも食べてみたくなります。
靴を脱いで座敷に上がり、庭を眺めながらワインと一緒に味わう観光客や、お気に入りをテイクアウトして帰る常連客も。この空間がお目当てでわざわざ訪れているのです。
オーナーシェフの南信吾さんは、イタリアンの料理人。奥様の美枝子さんがサービスを担当しています。
「個性のあるお店を持ちたいと思っていたんです。フォカッチャの専門店がいいとか、ふたりで色々考えていました。そのうち、子供の幼稚園や学童保育のおやつで、いい材料で作ったキッシュを食べてもらいたいと思うようになって」と美枝子さん。はじめは小売りではなく卸をしようと考え、キッシュを焼くための厨房を探していて見つけたのが、この建物なのだそう。「静かで、人通りも少ないのが気に入って(笑)。スペースがあるので、ゆっくり食べていただけると思い、イートインも始めました」。
イートインでキッシュを注文すると、運ばれてきたお皿には、キッシュが見えないくらい野菜がたっぷり盛られています。その野菜も、間引き菜や根菜類、ローストしたものなど、数えきれないくらい種類が多い。オリーブオイルとバルサミコ酢がかかっていて、まず野菜を食べてから、キッシュを味わう一皿になっています。
「加茂の浦辻農園さんの野菜がメイン。露地で栽培された野菜で、味が濃い。間引きした小さなニンジンなども使います。野菜をたくさん食べてもらいたい」と野菜ソムリエの資格を持つ南さん。
他も、大和肉鶏の有精卵や月ヶ瀬の原木シイタケなど、食材はできるだけ地元で採れるものを使用。奈良でしか味わえないキッシュとパイなのです。
2014.10.26(日)
文・撮影=そおだよおこ