「おいしいおはなし」は、編集・ライターの川瀬佐千子さんと料理人のやまさききよえさんによる、物語を味わうプロジェクト。古今東西の児童文学を紹介しながら、そこに登場するおいしそうな食べ物を作ってレシピを届けています。それらをまとめてこの秋に刊行された『続 おいしいおはなし』(グラフィック社)では、29作品と29皿を紹介。そのなかから1作品と1皿を抜粋してお届けします。


山のようにつみかさなったパンケーキが登場

『長くつ下のピッピ』
アストリッド・リンドグレーン 作 、大塚勇三訳(岩波書店)

サルのニルソン氏を抱え、金貨のいっぱい入ったトランクひとつを持ってごたごた荘に引っ越してきた少女、ピッピ。隣に住んでいたのはトミーとアンニカ。へんてこりんな格好をしているけれど力持ちで新しい遊びを発明する天才のピッピの登場で、二人の毎日はワクワクに満ちたものに。ピッピの天真爛漫さと勇敢さは、やがて大人たちをも魅了していく。

 左右違う色の長くつ下と大きな靴を履いてしっかりと地面を踏みしめて立ち、その腕にサルを抱えたおさげの女の子。そこには赤いタグが添えられ「世界一つよい女の子」という言葉。かっこいい! ピッピとの初対面の印象は、この表紙で決まりました。

 ちゃんと学校へ行ってお行儀よく過ごしちょっと退屈な日々を送るトミーとアンニカ。彼らが住む家の隣の「ごたごた荘」に、ある日やってきて暮らし始めた女の子がピッピです。その自由奔放な行動は、彼らとそして読む子どもたちをあっという間に夢中にさせます。ピッピは馬を楽々と持ち上げてしまうほどの力持ちで、町の不良の男の子たちが小さな男の子をいじめているのに遭遇すると、《どうも、あんたは、レディーに対するお作法をよくしらないみたいね》(『長くつ下のピッピ』47頁)と一網打尽。サーカスを見にいっては、サーカス団顔負けの曲芸を披露して、観客を大いに沸かせます。

 その破天荒な振る舞いは時に大人の眉をしかめさせますが、ピッピが勇敢でやさしい女の子だということは、やがて大人たちにも伝わります。

 だから、トミーとアンニカのお母さんが二人に「あの子と遊んではいけません」なんてことを言うことは決してありません。むしろ、トミーとアンニカがピッピと旅に出ることになって近所の奥様方が心配しても、きっぱりとこう言います。

 わたしはピッピのこともずっとみてますけれど、あの子が、トミーとアンニカにわるいことをしたことは、これまで、いっぺんもありません。あの子ほど、うちの子にやさしくしてくれるものはいませんわ。(111頁)

 ピッピは決して力自慢をしたり、人気者になりたくて行動しているわけではないのです。ごく当たり前に、自分が楽しんだりみんなを喜ばせたりしているだけ。トミーとアンニカが、そしてみんなが笑顔になることが、ピッピには何よりうれしいのです。

 実は、船乗りのお父さんが波にさらわれて行方不明になってしまい、一人ごたごた荘で暮らしながらその無事を信じて帰りを待っているピッピ。読んでいると時折そのさみしさも感じられます。ピッピと毎日を過ごすようになって《ピッピがくるまえは、なにしてあそんでたんだか、ぼく、それだっておもいだせないよ》(72頁)と言うトミーとアンニカですが、実はピッピにとっても二人と過ごす時間は失いたくない大切なものなのだと分かります。それは、ピッピの誕生日パーティに出席したトミーとアンニカがお父さんに連れられて自分の家に帰るときのこと。夜の玄関で一人見送るピッピは、二人の背中に向かって叫ぶのです。

「わたし、大きくなったら、海賊になるわ!」
 ピッピはそう叫んでいました。
「あんたたちも、海賊になる?」(257頁)

 さて、今回はそんな三人の日々のおはなしから、ピッピが用意したピクニックのお弁当をご紹介。ある平日、トミーとアンニカは、ピッピに今日は学校が休みだと知らせにきます。その日はすばらしくお天気のいい日でしたから、ピッピは遠足に行こうと提案します。ピッピはニルソン氏を肩にのせ杖を片手に、片手には大きなかごといういでたち。かごの中には、ピッピお手製のごちそうです。《お砂糖をかけたパンケーキが、山のようにつみかさなっています》(129頁)。

 パンケーキというとフワフワの生地を思い浮かべるかもしれませんが、ピッピの暮らすスウェーデンのパンケーキはクレープのように薄いもの。焼きたてももちろんですが、冷めてからでもモチモチでおいしいので、ピクニックのお弁当にはぴったり。お砂糖やジャムをかけて食べてもいいし、ソーセージやハムを包んでもおいしい。たくさん焼いてお友達と一緒に、それぞれ好きな食べ方で召し上がれ。

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