自己否定ではなく、生きていくために価値観を選ぶ

――寄子は、大切な人を亡くした喪失を抱えながらも創作に情熱を注ぐ彫刻家です。寄子の生きる姿勢や揺らぎを演じるうえで、どのように意識して役作りをされたのでしょうか。

 不思議な女性だなと思いました。監督のイメージや、静河ちゃん(友梨役)と並んだ時の感覚が大きかったです。実際、セリフの中で、友梨から「寄子さんずるい」と言われることもあるんですよ。確かに私も、彼女がずるく見えるところもあるんじゃないかなと思って。

――友梨は寄子の弟の元妻で、友梨と弟が離婚した後も義理の元姉妹で仲が良い関係です。東京で活躍している建築家の友梨は仕事に追われる日々のなかで立ち止まり、ナギで暮らす寄子の家へ。そこでゆっくりと滞在し周囲の人たちと交流するなか、これからどう生きていくかを見つめ直すかのような数日間が描かれています。

 最後の寄子と友梨が2人で対話する場面では、監督から「微笑む一瞬を」と言われたのですが、私は嬉しいけれど「友梨は戻ってこないでほしい」と強く思いながら静河ちゃんの顔を見たんです。そこが私なりの寄子の感情で、すべての思いを話さないところは少しずるいところでもある。

 この物語は友梨のお話でもあって、彼女がどう踏み出すかまでの数日間なので、自身の判断で故郷のナギに骨を埋めると決めた寄子として「こっちへおいで」とはしたくないなと思いながら会話をしていました。

――客観的には、建築家として都市部で活躍する友梨の成長を応援したい。けれど個人的には、ナギでこれからも一緒に過ごせたらきっと楽しい。寄子の中には相反する思いが同居しています。そして彼女たちはどのような選択をするのか。またこの作品にはセクシュアリティについての表現があります。地方の町では都市部よりも繊細に捉えられると感じました。松さんはどのように考えて演じられましたか。

 監督から「セクシュアリティやジェンダー的なものを前面に出す作品にするつもりはない」と言われて、なるほどと思いました。だから何かすごいメッセージを、としなくてもいいのかなと。ただ全然意識しないというのも不自然ですよね。当人が伝えていないため、町の人たちは個人のセクシュアリティを知りません。

 でもそれは自己否定ではなく、その人がそこで生きていくために選んだ価値観なんだろうと思います。言う・言わないが良い・悪いではなく、目の前にいろんな人たちがいるだけの関係がただそこにある。それが自然とにじみ出て伝わるといいのかなと思いながら演じました。

――その町で穏やかに居続けるために言わないことを選ぶ。ある意味で町の人たちへの思いやりや配慮であるのかもしれませんね。

 そうかもしれないですね。自分が言いたいことを言わないストレスよりも、いざとなったら自分の居場所を変えることもできるけれど、それでも、と。どうするのがこの町に居るということなんだろうと考えた時に、周りへの優しさも含めて、その人の選択なんだと思います。

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