ヤマザキマリが思う「いい作品」
ちなみに主人公のルシウスはもうすぐ還暦なので、私と同じくらいの年齢ですから描きやすいんです。足腰に支障が出ていて、意欲があっても体力がついていかない。そのくせ古代ローマ人的な変なプライドばかりが高く、Z世代(※)の息子との関係もギクシャクしている。現代の日本の社会を見ていて感じたことをそのまま投影している部分もありますが、やはり自分が自然に描けるもの、大風呂敷を広げずに、これまで培ってきたものを自然なかたちでおもしろく表現できれば、いいかと。
どんな表現媒体にもいえることですが、いい作品は作者の自己主張や啓蒙をアピールするものではなく、見ている人、読んでいる人、聴いている人の心象風景がそこに鏡のように反映されるものではないかと思うようになってきました。漫画にせよ、音楽にせよ、絵画にせよ、私自身が気に入っている作品というのが、おおむねそもそもそういうものばかりだからかもしれません。
※Z世代 1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代をさす。幼いときからインターネットが身近にあり、デジタルネイティブ、SNSネイティブとも呼ばれる世代。
ヤマザキマリ
漫画家・文筆家・画家。日本女子大学 国際文化学部国際文化学科 特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1984年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受賞。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中。

最後の講義 完全版 漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリ
定価 1,760円(税込)
主婦の友社
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
