『水戸黄門』みたいな漫画を描きたい
年齢もありますけれど、それでも描くのだとしたら、斬新な漫画とか、話題性をもたらすような作品というのではなく、『サザエさん』や『ドラえもん』のように定型が決まっていて、先が読めてしまうけれど、あえて安心して読めるおもしろい漫画、『水戸黄門』みたいな漫画を描きたいと思うようになりました。
みなさん、もう『テルマエ・ロマエ』のフォーマットはわかっている。古代ローマ時代に生きるエンジニアのルシウスが困って、どこかで足を滑らせ、お湯の中に吸い込まれてハッと気づいたら日本の浴場から出てくる。そして、日本の技術と接触をし、それをローマに持ち帰って活用し、めでたしめでたしになる。
だけど、ルシウスはそうした技術をまるっと模倣しただけなのに称賛されることについて、どこか後ろめたい気持ちでいる。わかっているけれど、でも仕方がない。自分はそれくらいの器なのだ、という自覚が彼にはある。気弱なヒーローですが、そこが私も彼の好きなところです。
2024年から連載が始まった『続テルマエ・ロマエ』は紙媒体ではなく、ウェブサイト限定で読めるようになっています。誰でも無料で読めるのですが、そこでは読者が直接コメントを書けるようなシステムになっています。「こんなご時世ですからいろんなことを書いてくる人がいるので、ヤマザキさんは読者コメントは読まないほうがいいですよ、読んでもめげないでください」などと編集者に脅されていました。
私もこうした匿名の書き込みではずいぶんつらい思いも重ねてきたので警戒していましたが、恐る恐る読んでみたら、なんとみんないいことしか書いていない。「おもしろかった」だけではなく「癒やされた」「そうそう、これでいい」という、私の主旨を肯定しているコメントがいっぱいあるんです。「お願いですから、このまま、この調子で続けてください」と。そうか、やっぱりこのご時世には『水戸黄門』が足りていなかったのかと思いました。
私もこれからは、自分が漫画家という表現を生業として生きてきた存在証明としてとか、自分らしい作品をつくるといった邪念に駆り立てられるのではなく、自分も含めてみなさんが生きていくためのちょっとした栄養補給になるような作品を、さりげなく、つつましく描き続けていきたいと思っています。
