恋人と二人きりになりたくて娘をパリに

響子 私が高校の頃、母とAさんのことは女性週刊誌などに書かれてました。学校で芸能レポーターの真似をして、「どうなんですか?」なんて聞くのがいてウザかった。

桃子 だけど戦時中の女学生だから、貞操観念というか、それはあるよね。

響子 男子にクラゲ投げつけた人だから。

桃子 クラゲ?

響子 夏の終わりに海で友達とボートに乗っていたら、男子学生が近づいて声をかけてきたんですって。ぷかぷか浮いてたクラゲを摑んでは投げ、摑んでは投げしてたら相手の顔にビチャッと当たって、スタコラ逃げだしたって。自慢気に話してました(笑)。

桃子 そういう感覚があるからなのか、恋愛の性的な部分はなぜか排除されている気がします。

響子 だけど情熱的な人だからね。私が小学校の頃、スイスの学校に入れられそうになりました。正月に1人でパリに行かされたのが中学生の時。私抜きでAさんと2人きりになりたかったんじゃない。そういう(性的な)関係もちょっと感じられたな。

桃子 想像がつかない。

響子 しかもパリには直行便でなく、南回りの飛行機で行ったから。タイとかインドとかで乗り継いで、私、乗り物酔いで散々な目に遭ったんだから。

贈られたものを布袋に入れて背負い投げ

桃子 で、母さんは、恋愛の後の憎しみみたいなところを見たんだよね。

響子 ああ、背負い投げの話ね(笑)。

桃子 何度も聞いた(笑)。

響子 中学の終わり頃、母が私の部屋に来て、「○○ちゃんにもらった物、全部出しなさい」って言ったんです。ただならぬ空気だったから、ラジカセ以外はみんな出しました。母はそれを全部、サンタクロースがかつぐみたいな大きな布袋に入れて、背負い投げにしたんです。ガッシャーンって。

桃子 その様子をリアルで見てたんでしょ。

響子 部屋の向こうが廊下になっていて、ドア越しに額縁の中の絵のような形で背負い投げが見えた(笑)。

桃子 シュールレアリスムの芸術のような。

2025.07.07(月)
文=矢部万紀子