響子 2度投げたね(笑)。

『それでもこの世は悪くなかった』(文春新書)の第一章は、「私をつくった言葉」。その一つに遠藤周作さんの「君は男運が悪いんじゃない。男の運を悪くするんや」がある。≪男の運を悪くする、というのは何か凄い力があるみたいでいいじゃないですか≫と続く。

響子 遠藤さんはやっぱり、母のことをよくわかってますよ。男の人に限らず、周りの者を追い詰めていくんです。私自身、母から「どうなの? どうなの?」と詰められることがしょっちゅうでしたから。

「見えていながらどうしようもできない魂」のその下に…

桃子 自分のことを女というふうにはプロデュースしたくない。祖母にはそういうところもあるのかなって。女というより祖母の目指したのは(父で作家の佐藤)紅緑(こうろく)だから。

響子 紅緑は自我を抑えられない人でした。よく似ていると思う。

桃子 紅緑は明治、大正を生きた男だから、感情を噴火させっ放しでもよかった。ところがばあさんには、女だという事実がつきまとう。だから時々、噴火口にパッと蓋をする。そんなふうに感じていました。

響子 正しさの基準が母の中にはあるんですよ。だけど情熱がそれを越えてしまう。そうしたバランスが悪い人だと思います。

桃子 その正しさを、我々に遂行してほしいというのがあるのかな。結婚して子どもを産めとかいうし、黒髪が一番派手なんだとか。この前も施設で「その髪の色はなんだ」って何度も言われた(笑)。

響子 男の人には、もっと厳しい。眉毛を整える男性を見るたび、「大の男が何をしている」って。

桃子 それ、上の立場の男が、下の立場の男にマウント取りにいく台詞だから(笑)。

桃子 これはもう私の勝手な分析ですが、「見えていながらどうしようもできない魂」の下に、祖母が意識もコントロールもできない部分があって、そこに「時代」とか「女性の本能」みたいなものがあるんじゃないかと思うんですよね。その部分に「恋愛」が入っているとしたら、それは祖母自身、理解しえない部分なのかな、って。

◆愛子さん自身と重なる設定の女性を主人公にした小説『幸福の絵』に描かれた“烈しさ”、娘や孫との恋愛トーク、施設での愛子さんの近況など、インタビュー全文は『週刊文春WOMAN2025夏号』でお読みいただけます。

娘・杉山響子
すぎやまきょうこ/1960年生まれ。玉川大学文学部卒。両親の離婚後は、母の佐藤愛子と暮らす。

孫・杉山桃子
すぎやまももこ/1991年生まれ。立教大学文学部卒。現在は「青乎(あを)」として、映像や音楽作家として活動。

さとうあいこ/1923年大阪府生まれ。甲南高等女学校卒業。1969年『戦いすんで日が暮れて』で第61回直木賞受賞、2000年、65歳から執筆を始めた佐藤家3代を描く『血脈』の完成により第48回菊池寛賞受賞。2017年旭日小綬章を受章。

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2025.07.07(月)
文=矢部万紀子